
その「NO」が、あなたの世界を狭くしていないか?
気づけば、何かに誘われても「いや、また今度でいいや」と答えている。
仕事が忙しい、疲れてる、気が向かない。
理由はいくらでもつけられるけれど、心の奥ではわかっている。
——本当は、ただ怖いだけだ。
失敗するのが、恥をかくのが、面倒に巻き込まれるのが。
そんな“NOだらけの毎日”に、一石を投じる映画がある。
それが、ジム・キャリー主演の『イエスマン “YES”は人生のパスワード』(2008年)だ。
この作品は、たったひとつの言葉——「YES」——で、人生をまるごと変えてしまう物語。
笑いながら、いつの間にか心を動かされている。
コメディでありながら、人生哲学のような一本だ。
作品データ
- 原題:Yes Man
- 公開年:2008年(アメリカ)/2009年(日本)
- 監督:ペイトン・リード(『アントマン』シリーズ)
- 脚本:ニコラス・ストーラー、ジャレット・ポール ほか
- 主演:ジム・キャリー、ズーイー・デシャネル、ブラッドリー・クーパー
- 上映時間:104分
- 配給:ワーナー・ブラザース
ストーリー ― “NO”をやめた男の、人生リブート
主人公カール(ジム・キャリー)は、銀行員。
離婚をきっかけに、人生の光を失っていた。
仕事も惰性。
友人の誘いも断り続け、休日はひとりDVDを見て過ごす。
「このままでいい」と思いながら、どこかで“何かが違う”と感じている。
そんな彼がある日、旧友に誘われ、自己啓発セミナーに半ば強制的に参加させられる。
壇上でカリスマ講師が叫ぶ。
「YESは、人生を変えるパスワードだ!」
勢いに飲まれたカールは、「これからはどんなことにもYESと言う」と誓ってしまう。
半信半疑のまま、YESライフが始まるのだが——そこから起きる出来事が、予想の斜め上を行く。

謎の老人との交流、深夜の即興ライブ、韓国語レッスン、そして思いがけない恋。
“YES”は、彼の世界を驚くほど豊かにしていく。
ジム・キャリーの“顔芸”を超えた演技力
ジム・キャリーを「マスク」や「ライアーライアー」の印象で止めている人には、この作品の彼を観て驚くかもしれない。
確かに表情やリアクションの面白さは健在だ。
でも本作で光るのは、むしろ“間”と“抑え”だ。
彼がふと見せる「疲れた笑顔」や「沈黙の一瞬」に、長年の孤独や迷いが滲む。
笑わせながら、心の奥を刺してくる——
それがジム・キャリーの真骨頂であり、『イエスマン』はそのバランスがもっとも絶妙な作品といえる。
ズーイー・デシャネルが象徴する“YESの自由”

カールの人生に光を差すのが、自由奔放な女性アリソン(ズーイー・デシャネル)。
彼女は常に前を向いている。
夜の高速道路をバイクで走り、奇妙なバンドで歌い、自分の感情に正直に生きる。
その存在は、カールの“NOだらけの人生”にとってまるで風。
ズーイー・デシャネルの持つ不思議な透明感が、この映画をただのコメディから、
“心の解放劇”へと引き上げている。
二人の距離が少しずつ近づいていく過程には、まるで春の光が差し込むような優しさがある。
“YES”が生み出す、笑いと混乱の連鎖
この映画の魅力は、テンポの良いギャグの中にある“人間くささ”。
セミナーでの洗脳まがいの誓約。
老人との勘違いハグ。
空港でのトラブル。
どれもくだらないのに、笑いの中に必ず“共感”がある。
「YESを言うだけで人生は変わる」という単純な設定を、ジム・キャリーは全身で説得力あるものにしている。
バカバカしいはずなのに、観ているうちに「ちょっとYESって言ってみようかな」と思わせる。
それがこの映画の力だ。
“YES”が現代に響く理由
2008年に公開されたこの作品は、今こそ観るべき一本になっている。
リモートワーク、SNS、自己完結型の生活。
私たちは以前よりも「NO」を選びやすくなった。
行かなくてもいい、関わらなくてもいい、動かなくてもいい。
だけど、それって本当に“楽”だろうか?
どこかで息苦しさを感じている人も多いはずだ。
そんな現代にこそ、カールの“YES”が刺さる。
それは無理に前向きになれというメッセージではない。
ただ「世界に心を開け」という、静かで力強いエールなのだ。
セリフに宿る、人生のヒント
「YESは世界を広げるパスワードだ。」
「怖いことほど、YESと言う価値がある。」
カールの言葉は軽く聞こえるが、その裏には実体験の重みがある。
一度“YES”と口にするだけで、人生はこんなにも多彩に動き出す。
映画を観終わる頃には、このセリフがまるで自分に語りかけてくるように感じるはずだ。
音楽とテンポがつくる「前向きな空気」
ズーイー・デシャネルがボーカルを務める架空バンド「Munchausen by Proxy」の曲は、
この映画の空気を象徴している。
軽やかで、少し風変わりで、聴くたびに前を向ける。
サウンドトラック全体もポップで爽快。
104分の尺があっという間に感じられるほど、リズムが良い。
この映画のテンポは、「人生の流れは止まらない」というテーマそのものでもある。
心が動く“ジム・キャリー作品の系譜”として
ジム・キャリーの代表作を振り返ると、『マスク』での爆発的テンション、『トゥルーマン・ショー』での現実への目覚め、『エターナル・サンシャイン』での愛の記憶。
『イエスマン』はそのどれとも違う。
彼の演技人生の中でも、“成熟した大人の希望”を描いた珍しい作品だ。
笑って、泣いて、また笑って。ジム・キャリーという俳優の「人生観」が、この映画にはぎゅっと詰まっている。
観終わったあとに残る“YESの余韻”
観終わると、心の中に小さな灯りがともる。
「久しぶりに連絡してみようかな」
「やってみたかったこと、少しだけ挑戦してみようかな」
そんな前向きな気持ちが、じんわりと湧いてくる。
“YES”は、人生を激変させる呪文じゃない。ただ、日々の流れを少し明るくしてくれるスイッチだ。
だからこそ、この映画を観たあとに残るものは“勇気”ではなく、“優しさ”だと思う。
総評 ― 笑いながら前に進む力をくれる映画
『イエスマン “YES”は人生のパスワード』は、コメディとしてもヒューマンドラマとしても完成度が高い。
シンプルなテーマを、ジム・キャリーの表現力が深め、ズーイー・デシャネルの存在が軽やかに支えている。
観ているあいだはずっと笑っているのに、エンドロールが流れるころ、心の奥が少し熱くなる。
「笑い」は、“前向きになるための一番優しい方法”なんだと気づかされる。
★ 評価表(2014年5月時点)
| 項目 | 評価 | コメント |
|---|---|---|
| ストーリー | ★★★★☆ | シンプルながらも普遍的なテーマ。 |
| 演技 | ★★★★★ | ジム・キャリーの人間味と存在感が光る。 |
| 笑い | ★★★★★ | コメディと感動の絶妙なバランス。 |
| 音楽 | ★★★★☆ | ポップで爽快、観終わっても耳に残る。 |
| メッセージ性 | ★★★★★ | “YES”が人生を変えるというシンプルな真理。 |
| 総合評価 | ★★★★☆(78点/100点) | じんわり心を明るくする人生応援ムービー。 |
https://youtu.be/adpMcyVGao0
















