
テディベアが「口が悪い」なんて誰が想像した?
2013年、日本でも一大ムーブメントを巻き起こした映画『テッド』。
 監督・脚本は『ファミリー・ガイ』で知られるセス・マクファーレン。
 そして日本語吹き替え版の声優には――まさかの有吉弘行。
 このキャスティングを聞いた瞬間、誰もが「え、なんで!?」と笑ったはずだ。
だが、ふたを開けてみればその“違和感”こそが本作最大のインパクトだった。
 なぜなら、有吉の声があまりにも“有吉”過ぎたからである。
 もはや「テッド」というキャラクターを超えて、そこには“有吉ベア”が生まれていたのだ。
あらすじ ― 夢を叶えた少年と、しゃべるテディベアの行く末
物語の出発点は、少年ジョンが幼少期に「テディベアがしゃべりますように」と願う、ささやかな奇跡。
 その願いが叶い、ぬいぐるみのテッドが本当に話し始める――。
だが奇跡はいつまでも輝き続けるものではない。
 月日が流れ、ジョン(マーク・ウォールバーグ)は35歳の冴えない中年男に。
 テッドは相変わらず彼の親友としてそばにいるが、問題は“悪友過ぎる”こと。
 一緒にマリファナを吸い、映画を観て、仕事も恋もグダグダ。
 そこに登場するのが、ジョンの恋人ロリー(ミラ・クニス)。
 彼女は言う。「テッドと縁を切らない限り、あなたは大人になれない」と――。
友情か、恋か。
 おバカで下品で、でもどこか切ない“成長できない男たち”の物語がここに始まる。
有吉弘行の声が“物語を食う”──吹き替え版の罪と魅力
吹き替え版を観た人の多くが口をそろえて言う。
 「有吉の声が強すぎて、ストーリーが入ってこない(笑)」
実際その通りで、彼の毒舌とテンポの良いツッコミが完全に“地声”の域。
 もはやキャラクターを演じるというより、有吉本人が映画の中に住みついているような錯覚を覚える。
 だが、それが妙にハマってしまうのだから不思議だ。
「お前、それ言う!?」と思うような台詞も、有吉ボイスならなぜか許せる。
 “憎めないクズ”を演じさせたら右に出る者はいない。
 これはキャスティングミスであり、同時に奇跡でもあった。
テッド=有吉、ジョン=視聴者? ――笑いの裏にある痛み
笑いと下品さの奥に潜むのは、“大人になりきれない男の痛み”だ。
 テッドは確かにぬいぐるみだが、象徴しているのは「過去の自分」。
 手放したくない幼少期、思い出、依存。
 彼を切り離すことは、つまり“子どもの心を捨てること”でもある。
そう考えると、有吉の声の存在感がより深く響いてくる。
 社会で大人として生きることの滑稽さと虚しさ。
 そこに毒をまぶして笑いに変えるのは、まさに有吉弘行そのものの芸風だ。
つまり吹き替え版『テッド』は、「ジョンと有吉の対話」としても観られる。
 アメリカンコメディの皮を被った“日本的成長物語”でもあるのだ。
ギャグの翻訳センスに注目せよ! ――日本語版のローカライズ力
本作の魅力を語る上で欠かせないのが、日本語版スタッフの翻訳センス。
 アメリカのジョークを日本語に落とし込むのは至難の業。
 しかし『テッド』ではその違和感を逆手に取り、有吉らしい言葉遣いを多用してローカライズしている。
たとえば下ネタも「品がない」ではなく「突き抜けてて笑える」方向へ。
 そのため、単なる吹き替えではなく「別作品」として成立しているのが面白い。
 字幕版で観ると確かにストーリーに集中できるが、吹き替え版には“芸人映画”としての価値がある。
映画としての完成度は? ――評価は「頭を空っぽにできる心地よさ」
シナリオ面で言えば、確かに『テッド』は“何てことない”映画だ。
 友情・恋愛・成長の物語としては王道中の王道。
 だが、そこにセス・マクファーレン特有の毒とナンセンスギャグが混じり、
 “ありきたりを笑い飛ばす爽快感”が生まれている。
何も考えず、笑って、ちょっと泣ける。
 観終わったあとに「まぁ、人生こんなもんか」と思わせてくれる軽さが心地いい。
 それはまさに、仕事に疲れた夜にビール片手で観るのが正解なタイプの映画だ。
頭を空っぽにして観る贅沢 ― “疲れた大人”のための癒やしコメディ
『テッド』の本質は「癒し」だ。
 クマが下ネタを連発しても、最終的にはどこか優しい余韻を残す。
 友情の絆も恋愛の葛藤も、どれも深刻になりすぎない。
 “真面目に生きようとする大人たち”を、ふっと肩の力を抜かせてくれる。
観る前に期待値を上げすぎず、
 「くだらなさを楽しむ覚悟」で挑むのがベスト。
 それができた人ほど、エンドロールで笑顔になれる。
結論 ― 有吉ボイスで全て持っていかれたけど、それでいい
確かに、有吉の声が強すぎてストーリーには入りづらい。
 でも、それこそが“日本版テッド”の完成形だった。
 作品全体を有吉の笑いに乗せて、ひとつの“日本的コメディ映画”に昇華してしまったのだ。
笑いの裏にちょっとの寂しさ。
 くだらなさの奥に、人生のやるせなさ。
 その温度差こそ『テッド』が10年以上経っても愛され続ける理由だろう。
評価表(2014年5月時点)
| 項目 | 評価 | コメント | 
|---|---|---|
| ストーリー | ★★★☆☆ | 王道で可もなく不可もなし | 
| 吹き替え演技 | ★★★★★ | 有吉弘行、存在感が強烈すぎて逆に最高 | 
| ギャグセンス | ★★★★☆ | 下品だけどテンポが良く、笑いのリズムが絶妙 | 
| 感情の深さ | ★★★☆☆ | 笑いの裏に少しの切なさが光る | 
| リピート性 | ★★★★☆ | 頭を空っぽにしたい夜にまた観たくなる | 
総合評価:★★★★☆(65点/100点満点)
 「何も考えずに笑える=最高のストレス解消コメディ」


















