音楽

米津玄師:日本語詞でアメリカRIAAプラチナへ─アーティストとしての成熟と今

米津玄師:日本語詞でアメリカRIAAプラチナへ─アーティストとしての成熟と今

2025年9月、米津玄師の楽曲「KICK BACK」がアメリカレコード協会(RIAA)からプラチナ認定を受けた。

これは、日本語詞の楽曲としては史上初という快挙だ。アニメ『チェンソーマン』のオープニングテーマとして生まれたこの楽曲は、異例の広がりを見せ、ついには世界最大の音楽市場であるアメリカで、100万ユニット以上という数字を記録するに至った。

だが、これは単なるヒットではない。米津玄師というアーティストが、音楽と言葉とアートを通じて長年積み上げてきた表現が、世界のリスナーに届いた象徴的な出来事だ。いま彼はどこに立ち、どこへ向かっているのか──“成熟”というキーワードから、米津の現在地を紐解いていく。

「KICK BACK」が超えた“言葉の壁”

「KICK BACK」は、2022年に放送されたアニメ『チェンソーマン』のオープニングテーマとして制作された楽曲である。激しいビートに日本語詞を乗せ、米津ならではの緊張感とエネルギーが一体となったこの曲は、アニメファンのみならず音楽リスナーの耳を強く引きつけた。

特筆すべきは、その“日本語のまま”アメリカ市場でプラチナ認定を受けた点だ。英語圏でのヒットが不可欠とされるRIAA認定において、初めて日本語詞の楽曲が100万ユニット以上を記録したのは歴史的な出来事である。

背景には、King Gnu・常田大希との共同アレンジや、モーニング娘。「そうだ!We’re ALIVE」のサンプリングといった異色の音楽的アプローチもある。視覚面でも、米津自身が描いたチェンソーマンのアートワークを採用するなど、音楽とビジュアルを融合させた総合的な表現が、国境を越えてリスナーの心をつかんだと言えるだろう。

米津玄師:日本語詞でアメリカRIAAプラチナへ─アーティストとしての成熟と今







アーティストとしての変化と深化

かつて米津玄師は、内向的なアーティストとして語られることが多かった。初期はボーカロイドP「ハチ」として活動を開始し、2012年に自身名義でメジャーデビューを果たして以降も、メディア露出は最小限。創作に没頭する姿勢は、ストイックで孤高のクリエイターという印象を与えていた。

だが、近年の彼には明らかな変化が見て取れる。2025年に開催されたドームツアー「JUNK」では、東京ドームのファイナル公演で「今まで生きてきてくれてありがとう!」と涙ながらに語る姿があった。その言葉には、観客との距離を縮めようとする“開かれた表現者”としての彼の意志が込められていたように映る。

以前は「ライブが苦手」と語っていた米津が、ファンの前で言葉を紡ぎ、感情を共有するようになったこと。それは彼自身がアーティストとして一段階“成熟”したことを示しているのではないだろうか。

広がり続ける創作領域

米津の表現活動は、音楽の枠にとどまらない。楽曲制作はもちろん、ジャケットやMVのビジュアル演出、ライブ構成に至るまで、自らが作品全体をデザインするスタイルは一貫している。

2025年には、劇場版『チェンソーマン レゼ篇』の主題歌として「IRIS OUT」が、宇多田ヒカルとの共作「JANE DOE」とともにダブルA面シングルとしてリリースされる予定だ。前者はオープニング、後者はエンディングに使われると報じられており、音楽と映像、ストーリーが重なり合う作品になりそうだ。

また、同年にリリースされた「BOW AND ARROW」では、フィギュアスケーター羽生結弦とのコラボ映像が話題に。アニメ『メダリスト』や『機動戦士ガンダム』シリーズへの楽曲提供など、多ジャンルにわたるクリエイティブへの関わりが増えている。米津玄師は今、単なるミュージシャンではなく、“ストーリーテラー”としての存在感を強めている。

世界を巡るステージ、そして「GHOST」へ

米津玄師:日本語詞でアメリカRIAAプラチナへ─アーティストとしての成熟と今

2025年に実施されたワールドツアー「JUNK」では、日本国内にとどまらず、アジア・ヨーロッパ・北米の主要都市を巡り、多くの会場で満員の観客を動員した。SNSやレビューでは、「海外でも米津の音楽がしっかりと届いていた」とする声も散見され、彼の表現が言語や文化の垣根を超えて浸透し始めていることを感じさせる。

そしてすでに、次なるステージの準備は始まっている。2026年には新たな全国ツアー「GHOST」の開催が発表され、さらにスケールアップしたステージになると期待されている。

タイトルに込められた“GHOST”という言葉には、過去の自分と向き合う意志や、新しい創造への意気込みがにじむ。このツアーが、アーティスト・米津玄師のどんな新しい姿を見せてくれるのか、多くのファンが注目している。







成熟の先にある自由

「KICK BACK」のプラチナ認定は、明確な成功の証だ。しかし米津玄師は、そこで立ち止まるタイプのアーティストではない。むしろ彼にとっての“成熟”とは、外からの評価に左右されず、自らの信念と表現を自由に追求できる状態のことなのかもしれない。

過去のスタイルをなぞるのではなく、時には壊し、再構築しながら歩む創作の道。その先にどんな音楽が生まれるのか。私たちはこれからも、彼の“変わり続ける姿”に惹きつけられていくだろう。

【今後の注目ポイント】

  • ダブルA面シングル「IRIS OUT / JANE DOE」は、2025年9月24日リリース予定。

  • 劇場版『チェンソーマン レゼ篇』との連動が話題となっており、公開時期は秋以降と見られる。

  • 2026年の全国ツアー「GHOST」では、海外公演の実施も視野に入っていると噂されている。

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