「卒業」とは終わりではなく続き
俳優、タレント、そして映画監督として幅広く活動してきた鈴井貴之。
近年は「北海道に根ざした作品づくり」を軸に、映像表現の新たな形を模索している。そんな彼が最新作として手がけるのが、**NHK北海道発のドラマ『鈴井貴之の道民ドラマ 卒業(仮)』**だ。監督・脚本を務める本作に込めた思いは、単なる学び舎からの“卒業”にとどまらない。
鈴井は今回のタイトルについて、「高校卒業って、まだ“仮免許”をもらったような状態」と語る。進学や就職といった人生の選択肢が広がる一方で、本当の意味での“卒業”は存在しない。むしろそこからが人生の本番なのだ、というのが彼の持論だ。
「卒業で区切るのではなく、人生はずっとING(進行形)で続いていく」
——鈴井貴之 コメントより
創作の原点・長沼町での挑戦
本作の舞台は、鈴井が少年時代を過ごし、自主映画を撮り始めた北海道・長沼町。自身の“創作の原点”ともいえる土地での作品づくりは、彼にとって大きな意味を持つ。
キャストには、地元の北海道長沼高等学校の生徒・湯浅綾人さん(中田大樹役)と喜井そらさん(山村瑞穂役)が抜擢された。さらに俳優の波岡一喜も出演し、地元の若き才能と経験豊富な俳優が共演する。ドラマパートに加えて、NHKディレクターが撮影したドキュメント映像も盛り込まれるという構成だ。
「卒業(仮)」が描く物語
『卒業(仮)』は、廃校を迎える長沼夕陽ヶ丘高校が舞台。最後の学校祭を前に、進路や将来に揺れる高校生たちとOBたちの姿を描く。
進学を決めた山村瑞穂と、酪農を継ぐか迷う中田大樹。対照的な二人が関わる学校祭の準備と、前夜に起きる“ある事件”が物語の軸となる。
「片田舎では人生の選択肢が限られる」という若者の嘆きと、地元に根ざすことの価値。鈴井自身が長年問い続けてきたテーマが、この作品に凝縮されている。
現在の鈴井貴之が映し出す「人生の続き方」
演劇・映画・バラエティと幅広い分野を渡り歩いてきた鈴井貴之は、常に「人が生きること」を作品に落とし込んできた。今回の『卒業(仮)』でも、廃校という終わりを描きながら、その先に続く人生を肯定的に捉えている。
北海道に根ざしながらも、普遍的な“生き方の問い”を描く彼の姿勢は、多くの視聴者に共感を呼ぶはずだ。
📺 放送情報
作品名:北海道道 Presents『鈴井貴之の道民ドラマ 卒業(仮)』
放送日時:2025年10月24日(金)19:30〜20:15(NHK総合・北海道)
配信:NHK ONEで放送後1週間、見逃し配信あり
鈴井貴之という人物を紐解く
「ミスター」の愛称で親しまれ、バラエティ番組『水曜どうでしょう』の企画・出演で全国に名を広めた鈴井貴之。その後は映画『man-hole』『銀のエンゼル』などで監督としての評価を確立し、舞台・映画・テレビを自在に行き来する存在となった。
彼の作品には一貫して「人間の弱さと、その先にある希望」が描かれている。大きな成功や派手な勝利ではなく、地方に生きる人々の等身大の姿をすくい取るのが鈴井の流儀だ。
近年は北海道を拠点に活動を続け、地元の若者やクリエイターと積極的に関わっている点も注目に値する。今回の『卒業(仮)』に長沼高校の現役生徒をキャスティングしたのも、まさに「次の世代へ創作のバトンを渡す」という彼の思いの表れだろう。
「仮免許」としての人生観
鈴井のコメントにある「高校卒業は仮免許」という比喩は、彼自身の歩みを反映しているようにも感じられる。
『水曜どうでしょう』での全国的ブレイクも、映画監督としての挑戦も、決して“本免許”ではなかった。常に新しい道を探し、模索し続けてきたからこそ、現在の彼がある。
観る者にとって『卒業(仮)』は、高校生だけでなく、大人にとっても「人生に卒業はない」という気づきをもたらすだろう。進学、就職、結婚、転職、そして老い。どの段階にあっても人は学び続け、歩き続ける。その姿勢こそが鈴井貴之のメッセージなのだ。