音が、もう一度、針の先で息を吹き返す。
クラムボンのカバーアルバム『LOVER ALBUM』(2006年)と『LOVER ALBUM 2』(2013年)が、2026年1月21日、初めてアナログ盤として同時リリースされる。
あの柔らかなピアノ、微笑むようなコーラス、そして空気を含んだベースの鳴り——。デジタルの時代を軽やかに駆け抜けてきたクラムボンの音楽が、20年という時を経て“レコード”という最も人肌に近いフォーマットに帰ってくる。
カバーという名の“対話”
2006年に発表された『LOVER ALBUM』は、矢野顕子「PRAYER」から始まり、フィッシュマンズ「ナイトクルージング」、岡村靖幸「カルアミルク」まで——。
選ばれた曲たちは、どれも時代もジャンルも異なるが、原田郁子の声とミトのベース、伊藤大助のドラムによって“クラムボン流の呼吸”を吹き込まれている。
「これはカバーアルバムというより、音楽へのラブレターだ」。
リリース当時、多くのリスナーがそう感じた理由は、彼らが単に“再現”するのではなく、音の奥にある“心”を探っていたからだ。
続く『LOVER ALBUM 2』では、その探求がさらに深くなる。中森明菜「DESIRE -情熱-」を大胆に再構築し、アニメ『けいおん!』の「U&I」では思わず笑みがこぼれるほどの温かさを滲ませた。空気公団や七尾旅人、Michael Kiwanukaまで、時代も国境も超えて響き合う選曲は、まるでクラムボンというフィルターを通した“音楽地図”のようだ。
原田郁子が語る「レコードで聴く」幸福
原田郁子(Vo, Key)は今回のアナログ化についてこう語っている。
「“Lover Albumはレコードにならないんですか?”という声をもらうたびに、“ね、レコードで聴きたいよね”と話していました。でも、実際はなかなか難しいだろうなと思っていたんです。で、す、が、レーベルのみなさんの熱意で実現しました。わーい!」
そしてもう一歩、音楽家としての本音もこぼす。
「1枚目は星野さん、2枚目はtoeの美濃くん。エンジニアとメンバーで小淵沢のスタジオに合宿して、実験しながら録音した日々を思い出します。レコードでぜひ聴いてください。そしてオリジナル音源も一緒に。私たちの演奏どうこうではなく、原曲の素晴らしさを伝えたいです」
“原曲への敬意”を何よりも大切にしてきた彼女らしい言葉だ。針を落とすと、盤のノイズに混じって、そのまっすぐな気持ちが確かに聞こえてくるような気がする。
20年の時を経て、再び響く「ありがとう」
今回のアナログ化は、デビュー25周年を経たクラムボンにとっても、ファンにとっても特別な出来事だ。
2000年代の空気をそのまま閉じ込めた『LOVER ALBUM』、そしてより開かれた時代の風を纏った『LOVER ALBUM 2』。その2作を並べて聴くと、バンドが歩んできた20年の軌跡がまるで音で描かれているように感じる。
さらに、今回のリリースでは特典としてステッカーシートが用意されている。対象はこの2作に加え、『imagination』『てん、』『Musical』『2010』『triology』のアナログ盤。クラムボンというバンドの多層的な魅力を“手触り”で感じられるコレクションだ。
■ 【2026年1月21日発売】アナログ盤詳細
『LOVER ALBUM』(COJA-9570〜1)
全13曲収録/2枚組アナログ盤
SIDE A
01. PRAYER /
02. That's The Spirit / ジュディ・シル
03. As Long As He Lies Perfectly Still / The Soft Machine
04. 外出中 /
SIDE B
01. 波よせて /
02. サマーヌード /
03. Across The Universe / The Beatles
SIDE C
01. ナイトクルージング /
02. 以心電信-You've Got To Help Yourself- /
03. I Am Not A Know It All / Bow Wow Wow
SIDE D
01. カルアミルク /
02. おだやかな暮らし /
03. I Shall Be Released / The Band
『LOVER ALBUM 2』(COJA-9572〜3)
全14曲収録/2枚組アナログ盤
SIDE A
01. 呼び声 /
02. GOLDWRAP / e.s.t.(Esbjorn Svensson Trio)
03. U&I / 放課後ティータイム
04. The Postman / The American Analog Set
SIDE B
01. DESIRE -情熱- /
02. 状態のハイウェイ /
03. Lady Madonna / The Beatles
SIDE C
01. O Caroline / Matching Mole
02. ぎやまん /
03. 何も言わないで / カコとカツミ
04. 雲のいびき /
SIDE D
01. 幸せ願う彼方から / 泉かなた
02. I'M GETTING READY / Michael Kiwanuka
03. FOUR IN THE MORNING /
特典対象のアナログ盤
・「LOVER ALBUM」
・「LOVER ALBUM 2」
・「imagination」
・「てん、」
・「Musical」
・「2010」
・「triology」
公式情報・予約リンク:クラムボン公式サイト
🎵 クラムボンが描く“音楽の継承”
クラムボンのカバーは、ただの再演ではない。
彼らが行っているのは、音楽という文化の「継承」だ。
矢野顕子やフィッシュマンズ、YMOといった先人たちの音を、自分たちの呼吸で再び世に送り出す。その行為はまるで“音のリレー”のようであり、原曲の魂を現代のリスナーへと手渡す作業でもある。
デジタル配信が主流となった今、彼らがアナログ盤という「物理的な記憶媒体」を選んだことにも深い意味がある。
針を落とし、音が鳴る。
その瞬間、20年前のスタジオの空気と、いまリビングに流れる空気が重なり合う。
それこそが、クラムボンがこの20年をかけて紡いできた“音楽の奇跡”だ。