
漫画家・森薫が、静かにそして確かな意志をもって新たな創作段階へ踏み出した。
『乙嫁語り』『エマ』『シャーリー』といった代表作で知られる森が、2025年10月に「近況おしらせいろいろマンガ!!」を公開。そこで語られたのは、制作環境の変化と、今後も変わらず作品を届けていくという力強いメッセージだった。
沈黙を破った「おしらせマンガ」
2025年2月20日発売のKADOKAWA『青騎士』第16号において、「森薫さんは今号限りで『青騎士』を離れます」と告知されてから約8カ月。ファンが続報を待つ中、森が自身の言葉で近況を伝えたのが「近況おしらせいろいろマンガ!!」だった。
この作品の中で彼女は、新たに設立された漫画専門の出版社「雪割草(Hepatica, Inc.)」から、今後の単行本を刊行していくことを報告。
さらに『乙嫁語り』の連載が継続して進行中であり、単行本も今までとほぼ同じペースで刊行される予定であると明かしている。

緻密な筆致に宿る静かな情熱――森薫という作家像
森薫といえば、衣装の刺繍や建築装飾までも描き込む細密な描線で知られる。
だが、その緻密さの奥には「人間の営みを丁寧に描く」という一貫した姿勢がある。
『エマ』では階級社会の中で生きる人々の誠実なまなざしを、『乙嫁語り』では中央アジアの文化と家族の絆を、静かにそして温かく描いてきた。
一つひとつの筆運びは、まるで祈りのように繊細だ。それは、森が“描くこと”を通して世界と対話している証でもある。
新たな拠点「雪割草」で始まる再構築
森の作品を今後刊行する新出版社「雪割草」は、2023年11月に設立された漫画専門レーベル。
同レーベルでは、入江亜季『北北西に曇と往け』、大槻一翔『ピッコリーナ』、安原萌『オーブリー』、だいらくまさひこ『グルタ島日記』など、個性豊かな作家陣の作品が刊行予定と発表されている。
森薫にとって、この「雪割草」は新しい出発点であり、自身のペースに合わせて創作できる環境の再構築でもある。
彼女の“変わらない筆”を支える、新しい土壌が整ったといえるだろう。
『乙嫁語り』は続く――変わらぬ世界、変わる形
「近況おしらせいろいろマンガ!!」では、『乙嫁語り』の連載形態が雑誌から離れることが説明されている。
森は、これまでと同様のペースで執筆・単行本化を続ける意向を示しており、物語の世界が途切れることはない。
青騎士での連載終了は一区切りであっても、アミルたちの物語は静かに、しかし確かに続いていく。
「森薫通信」――読者との新しいつながり
今回の報告の中で特に注目を集めたのが、「森薫通信」という個別送付のペーパー構想だ。
これは、出版社や雑誌を介さずに森自身が読者へ直接メッセージを届ける試みであり、ファンとの距離を改めて見つめ直すものといえる。
デジタル全盛の時代にあえて“紙の手触り”でつながろうとする姿勢は、森の創作哲学そのものだ。
復刊と新刊の波――『エマ』『シャーリー』『短編集』へ
さらに、『エマ』の復刊決定、『シャーリー』第3巻の発売予定、短編集の準備など、作品群の新たな展開も告知された。
初期作から現在に至るまでの道のりを一望できる内容であり、森薫の作家活動が新しい段階へ移行することを感じさせる。
無理のない制作体制で続く創作
森はこれまで、体調や生活リズムに配慮しながら創作を続けてきた。
「おしらせマンガ」からも、過度な負担を避けつつ、作品を継続して届けるための工夫が読み取れる。
無理をせず、それでも描き続ける――その静かな覚悟は、長年読者に愛されてきた理由のひとつだろう。
森薫作品が描く“細部の生命”と時の流れ
森薫の作品には、時間の流れが丁寧に刻まれている。
針の一目、湯気のたち方、木漏れ日の粒――そのどれもが「生きること」の尊さをそっと伝えてくる。
創作とは、状況が変わっても“今できる最善”を積み重ねる営みであり、森の筆跡はその真実を静かに語り続けている。
彼女がこれから描く新しいページは、きっと穏やかで、そして確かな希望に満ちているだろう。
出典
- 森薫「近況おしらせいろいろマンガ!!」(2025年10月公開)
- 出版社「雪割草(Hepatica, Inc.)」公式情報(2023年11月設立)
- KADOKAWA『青騎士』公式発表(2025年2月20日号)
















