清野菜名という女優の軌跡を振り返ると、常に「変化」がそばにある。
モデル、アクション、ヒューマンドラマ、そして声の演技。
どの現場でも、彼女は新しい表現の扉を迷いなく開いてきた。
2025年に主演を務めたドラマ『119エマージェンシーコール』は、そんな清野菜名の現在地を象徴する作品だった。
身体ではなく“声”で命を救うというテーマの中で、彼女は新たな芝居の領域に踏み込んでいる。
モデルから女優へ——身体表現の限界を超えて
1994年10月14日生まれ、愛知県出身。
清野菜名は2007年にティーン誌『ピチレモン』の専属モデルとして芸能界入り。
当初は可愛らしい笑顔が印象的なモデルだったが、高校時代にアクション指導を受けたことが転機となる。
その後、映画『TOKYO TRIBE』（2014年）でヒロインを務め、身体能力と演技力の両面で注目を集めた。
この作品で第36回ヨコハマ映画祭・最優秀新人賞を受賞し、女優としての道を確かなものにした。
以降は、『トットちゃん！』『今日から俺は!!』『シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。』など、幅広いジャンルで活躍。
“動ける女優”というポジションを築きながらも、清野の目は常に次のステージを見据えていた。
アクションだけでなく、言葉や表情で伝える「静の演技」へとシフトしていく——その流れの先に『119エマージェンシーコール』がある。
“声で命を救う”——『119エマージェンシーコール』が示した新境地
2025年1月期に放送されたフジテレビ系月9ドラマ『119エマージェンシーコール』。
清野菜名が演じたのは、横浜市消防局・司令課3係の指令管制員、粕原雪。
“一度聞いた声を忘れない”という特異な能力を持ち、119番通報を通じて人の命と向き合う役どころだ。
このドラマは放送直後から反響を呼び、TVerとFODの合計無料見逃し配信数が放送後1週間で200万再生を突破。
全11話の**個人全体視聴率平均は4.6％**を記録し、フジテレビの月9枠としては2023年『風間公親－教場0－』以来の高水準となった。
声の芝居を主軸にしたドラマでこれだけの数字を出したのは異例だ。
SNS上でも「声だけで泣ける」「清野菜名の静かな演技が深い」といった感想が多く寄せられ、彼女の新たな魅力を再発見した視聴者が少なくなかった。
そんな中、2026年新春にはスペシャルドラマ『119エマージェンシーコール2026 YOKOHAMA BLACKOUT』の放送が決定。
AI導入による人間と機械の対立、そして横浜を襲う大規模停電という極限状況の中で、再び粕原雪が“声で人を救う”姿が描かれる。
清野菜名が語る、“命をつなぐ現場”への想い
公式コメントで清野菜名はこう語っている。
「『119エマージェンシーコール』がスペシャルドラマとして帰ってくることになりました。日頃より、現場で命をつないでくださっている皆様へ感謝の気持ちを込めて撮影に臨みます。放送をどうぞ楽しみにお待ちください。」
この言葉の通り、彼女の演技には“現場で生きる人々”への敬意がある。
『119エマージェンシーコール』で清野が体現したのは、ただのドラマ上の役割ではなく、現実に誰かの命を支える人々の代弁そのもの。
その真摯な姿勢が、多くの視聴者の心を打った。
“アクション女優”から“内面の表現者”へ
アクション、コメディ、社会派ドラマ、そして声優業。
ジャンルを超えて挑戦を続ける清野菜名の軌跡は、「枠に収まらない女優」と呼ぶにふさわしい。
アクションで見せた瞬発力、心理劇で見せる静けさ、そして声の芝居で伝わる温度感——そのすべてが彼女の表現の一部だ。
近年では映画『キングダム 大将軍の帰還』（2024年）に出演。
さらに、ディズニー＆ピクサー映画『星つなぎのエリオ』（2025年8月1日公開）では日本語吹替版でオルガ役を担当し、声優としても新境地を開いた。
身体と声、二つの領域で命を吹き込むその姿は、まさに“声の表現者”という言葉にふさわしい。
現在地とこれから——変化を恐れない生き方
結婚・出産を経てなお、表現者としての熱は衰えるどころか増している。
演技という仕事を通じて「人を支える」ことを体現し続ける彼女の姿に、多くの人が勇気づけられてきた。
清野菜名の強さは、派手な言葉ではなく、静かな覚悟の中にある。
アクションで戦い、声で支え、そして心で伝える。
清野菜名は今、あらゆる方法で“命を描く”女優になろうとしている。
『119エマージェンシーコール』という作品は、その進化の一つの通過点にすぎない。
彼女の挑戦はまだ続く。これからも、彼女が紡ぐ“声”に耳を傾けたい。
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