
2025年のドラマは一言でいうと、「現実のしんどさ」と「物語の気持ちよさ」を両立させに来た年でした。
社会のど真ん中(教育、救急、災害、働き方、ジェンダー)に踏み込みつつ、説教で終わらせない。ちゃんと“娯楽”として持ち帰らせてくれる作品が強かった印象です。
そこでポプバ編集部が選んだのが、下の5本。話題性だけじゃなく、脚本の設計、演出の目線、視聴後に残る問いまで含めて「今年の象徴」として推したいラインナップです。
『じゃあ、あんたが作ってみろよ』:恋愛ドラマに見せかけた“生活の憲法改正”

結婚寸前で別れた二人が、「料理」をきっかけに“当たり前”を見直していく再生ロマンスコメディ。TBS火曜ドラマ枠で、夏帆さん×竹内涼真さんのW主演。2025年10月7日スタート、毎週火曜よる10時という座組です。
この作品の強さは、恋愛の勝ち負けじゃなくて、生活のルール(=無意識の権力)に踏み込むところ。例えば「料理は女が作って当たり前」という価値観を、悪役の断罪で片付けない。言った本人すら“自覚してない”レベルの習慣として描くから、見ている側も心当たりが刺さります。
編集部的にグッときたのは、主人公・山岸鮎美(夏帆)が「相手に合わせて成立していた自分」をほどいていく過程。ここって、恋愛の話でありつつ、仕事や友人関係にもそのまま転用できる。だから視聴後に残るのは、感動というより生活の姿勢が少し変わる感じなんですよね。
視聴者の感想では、カツオは「いい男になった」あゆみは「共感できない」みたいな最後の感想もありました。笑
原作は谷口菜津子さんの同名漫画で、脚本に安藤奎さんらが参加。
『御上先生』:学園ドラマの皮をかぶった“制度のサスペンス”

文科省のエリート官僚が、高3の担任教師として現場に送り込まれる。TBS日曜劇場、毎週日曜よる9時で、主演は松坂桃李さん。2025年1月スタートとして公式に案内されています。
『御上先生』の上手さは、教室を「青春の舞台」にしないところ。もちろん生徒は主役級に描かれるけど、話の核心は“個人の努力では解けない構造”にある。現場で正しいことをしようとすると、制度側の都合が歪みとして立ち上がる。そこで御上孝(松坂桃李)が選ぶのが、「現場から、制度の内部を揺らす」という戦い方です。
脚本は詩森ろばさん、教育監修・学校教育監修も明記されていて、ディテールの説得力を担保しているのも大きい。
学園ドラマにありがちな“熱血で丸く収める”ではなく、問いを残して終える勇気が、2025年の空気に合っていました。
『119エマージェンシーコール』:「顔」じゃなく「声」で命をつなぐ、新しいヒーロー像

舞台は消防局の通信指令センター。119番通報に応答し、救急車・消防車の出動を指令する指令管制員(ディスパッチャー)たちの群像劇で、フジテレビの2025年1月期“月9”(毎週月曜21:00)として放送。主演は清野菜名さんです。
この作品が“今年っぽい”のは、ヒーローを派手に見せないところ。現場に走るのではなく、デスクの前で、言葉と判断で救う。だからドラマとしての山場は、爆発やカーチェイスじゃなくて、通報者の言葉の切れ端から場所を特定するとか、限られた情報で最適解に近づく“思考の緊張感”になります。
公式でも、横浜市消防局の協力で司令センターをセットで再現したことが触れられていて、リアリティの土台がちゃんとある。
そして現実的な強さとして、最終話の見逃し再生数が211万回突破、累計2000万再生突破など“配信で回るドラマ”としての存在感も残しました。
『ホットスポット』:大事件じゃなく“日常の違和感”を育てる贅沢

バカリズム脚本、市川実日子さん主演。富士山麓の町を舞台にした「地元系エイリアン・ヒューマン・コメディー」で、日テレ系日曜ドラマ枠。第1話が2025年1月12日、最終話が3月16日。
何が面白いって、宇宙人が出るのに、話の主成分が“生活”なんです。ホテルのフロント、幼なじみのご飯、町の政治っぽいゴタゴタ。そこに宇宙人・高橋(角田晃広)が混ざることで、日常のルールが少しズレる。そのズレが、笑いにもなるし、地元の連帯にもなる。最終話のあらすじでも、ホテル売却や市長の不正という「町の未来」の話へ接続していくのが分かります。
昨今は難しいドラマや、捻りが多いドラマが多いですが、この混沌とした世界で、肩の力を抜いて観れる癒しのドラマでした。
出演陣は市川実日子さん、角田晃広さん、鈴木杏さん、平岩紙さんほか
“派手な事件で引っ張らないのに、続きが気になる”。この作り方、2025年の娯楽の成熟を感じました。
『続・続・最後から二番目の恋』:年を取ることを、ちゃんと面白がるシリーズの帰還

フジテレビの月9として、2025年4月14日スタート、毎週月曜よる9時。小泉今日子さん&中井貴一さんのW主演第3期で、鎌倉を舞台にしたロマンチック&ホームコメディです。
このシリーズが2025年に効いた理由は明確で、「年齢」を“衰えの物語”にしないから。公式イントロでも、前作(2014年)から11年後を描き、千明は59歳、和平は63歳という設定が提示されています。
恋愛や仕事の悩みって、若い頃のように派手に燃えない。でも、消えるわけでもない。その“鈍く続く感じ”を、会話劇で温度高く描くのが岡田惠和さん脚本の真骨頂で、スタッフ欄でも脚本が明記されています。
それに、こういう“続編”がちゃんと成立するのは、懐かしさ頼りじゃなくて、今の社会の悩み(孤独、介護、働き方、体力の変化)が、登場人物の年齢と自然に噛み合ったからだと思います。
若い層には若干刺さりにくいかもしれませんが、40代以上の層には刺さりまくるのではないでしょうか?
2025年ドラマ総決算:視聴者が求めたのは「正しさ」より「納得」
ここからは年末総括。編集部の体感として、2025年は「スカッと」より「腑に落ちる」が勝った年でした。
① “現場の仕事”が主役になった(しかも地味な現場)
『119エマージェンシーコール』は、まさに“救命が始まる最初の現場”として司令センターを描いた作品。
『ホットスポット』も、町のホテルや人間関係という生活の現場が主役。視聴者が見たかったのは、ヒーローの決め顔というより、日々を回す技術だったのかもしれません。
② 「制度」や「当たり前」がテーマ化した
『御上先生』は省庁と学校のねじれを正面から描き、
『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は恋愛と生活習慣を“更新”する物語として成立した。
2025年は、個人の努力礼賛よりも「構造を見たい」視聴者が増えた印象です。
③ 続編が“懐古”ではなく“現在形”になった
『続・続・最後から二番目の恋』は、前作から11年後という時間を物語の栄養にした。
続編が「戻ってきた!」で終わらず、今の年齢の今の悩みとして届いたのが大きい。
| 作品 | 放送枠/局 | ざっくりジャンル | 2025っぽさの芯 |
|---|---|---|---|
| じゃあ、あんたが作ってみろよ | 火曜ドラマ/TBS | 再生ロマコメ | “当たり前”の再点検 |
| 御上先生 | 日曜劇場/TBS | 教育×政治ドラマ | 現場と制度のねじれ |
| 119エマージェンシーコール | 月9/フジ | 通信指令センター群像 | 「声」で救う最前線 |
| ホットスポット | 日曜ドラマ/日テレ | 地元系エイリアンコメディ | 日常のズレを笑う |
| 続・続・最後から二番目の恋 | 月9/フジ | 大人のロマンチック&ホームコメディ | 年を重ねることの肯定 |
2025年のドラマ視聴は「テレビを見る」から「生活に差し込む」に変わった
2025年を振り返ると、「面白いドラマが多かった」で終わらせるのはもったいない。もう一段深く言うなら、ドラマの楽しみ方そのものが、じわっと更新された年でした。
象徴が『119エマージェンシーコール』の“配信で回る強さ”。公式発表ベースでも、最終話の無料見逃しが211万再生、累計2000万再生突破など、視聴の熱が週をまたいで可視化されました。これは「その時間にテレビの前にいる人」だけが盛り上がる時代の終わりを、かなり分かりやすく示しています。翌日でも、週末でも、見た人がSNSで語り直し、そこから新しい視聴者が流入する。ドラマが“放送枠のコンテンツ”というより、“生活の中で再生される体験”に寄っていったんですよね。
同時に、リアリティの担保のされ方も変わりました。『119』は横浜市消防局の協力が公式でも語られ、 さらに横浜市側のサイトでも作品が紹介され、通信指令センターが舞台であることや、スペシャルドラマの概要まで説明されています。 つまり、作り手が「リアルっぽく見せる」だけじゃなく、社会の側が「この描かれ方なら伝わる」と相互に接続していく。これができると、視聴者は安心して物語に没入できるし、作品が“正しさの宣伝”ではなく“納得の物語”になる。
その一方で、現実が重いほど、ドラマは救いも必要になります。そこで効いたのが『ホットスポット』みたいな、日常の違和感を笑いに変えていく作品。重いテーマを扱う年ほど、こういう“心の余白を作るドラマ”が文化的に重要になる。2025年は、社会派とコメディが競争するのではなく、互いの価値を補い合っていたのが面白いところでした。
皆さんは2025年、どのドラマが好きでしたか?















