
2026年1月15日、一二三書房から刊行された『裏庭のドア、異世界に繋がる 異世界で趣味だった料理を仕事にしてみます』第1巻。
原作は芽生による小説で、漫画化を手がけたのはpome村だ。異世界作品でありながら、剣も魔法も前面に出てこない。本作が描くのは、人と人がゆっくり関係を取り戻していく時間である。
留守番から始まる、少しだけ不思議な出来事
主人公は、女性・恵真。海外旅行に出かける祖母の代わりに家を預かり、裏庭の手入れと愛猫クロの世話を任されるところから物語は始まる。
変化は突然訪れる。裏庭のドアを開けて現れたのは、少年のアッシャーとテオ。
仕事を手伝う代わりに食べ物を分けてほしいと頼む二人を、恵真は事情を抱えた近所の子どもだと思い込む。
しかしそのドアは、異世界とつながっていた。
「異世界×料理」が生む、穏やかな物語構造
この作品の核にあるのは、料理だ。
恵真はかつて仕事に行き詰まり、自信を失って職場を離れた過去を持つ。そんな彼女にとって、料理は“評価されなくても続けてきた行為”だった。
異世界から訪れる人々に料理を振る舞い、言葉を交わし、また次の日を迎える。その積み重ねの中で、恵真は「喫茶店」という形で異世界の住人たちを迎え入れることを決意する。
世界を救うわけでも、運命を背負うわけでもない。それでも、この選択は確かに彼女自身の人生を前に進めていく。
少年たちは“異世界の説明役”では終わらない
アッシャーとテオは、異世界を説明するための便利な存在ではない。
彼ら自身もまた、働き、対価を受け取り、人と関わることで居場所を作ろうとしている。
だからこそ、恵真と彼らの関係は「助ける側/助けられる側」にはならない。同じ時間を過ごす“来客と店主”として描かれる点が、この作品をやさしく、誠実なものにしている。
派手さのない物語が、心に残る理由
「裏庭のドア、異世界に繋がる」は、大きな事件を用意しない。
その代わり、誰かに食事を出すこと、話を聞くこと、扉を開けることの意味を丁寧に積み上げていく。
読後に残るのは高揚感ではなく、「今日はこれでいい」と思える静かな肯定だ。
“喫茶店”という場所が象徴するもの
喫茶店は、家でも職場でもない中間地点だ。本作で恵真が選んだのがこの形だったことは、非常に象徴的と言える。
異世界の住人にとっては、安心して立ち寄れる場所。恵真にとっては、社会と再びつながるための距離感を保てる場所。互いに踏み込みすぎず、それでも同じ空間を共有できる。
この「ちょうどいい距離」があるからこそ、物語は無理なく続いていく。異世界という非日常を使いながら、実はとても現実的な再生の物語が描かれているのだ。
まとめ
・裏庭のドアがつなぐ、異世界と日常
・料理を通じて生まれる、穏やかな交流
・仕事を辞めた女性が“居場所”を取り戻す物語
・静かな異世界日常譚を求める読者に最適な1巻
刺激よりも、呼吸を整えるような読書体験を求める人へ。この物語は、そっと背中を温めてくれる。

