
まず大前提として、この作品は「箱根駅伝=走る人の物語」だけじゃありません。
走る側(ランナー)と、伝える側(テレビ中継の制作陣)。この2つが同じ熱量で進んでいくのが最大の特徴です。
読み始めると、「え、箱根って放送する側もこんなに戦ってたの?」となるやつです。
物語は“予選敗退”から始まる
舞台は箱根駅伝の予選会。
古豪の明誠学院大学は「今年こそ本選へ」と挑むものの、わずかな差で届かず敗退します。
主将でエースの青葉隼斗は、自分の不調が敗因になったことを痛いほど理解していて、心が折れかける。そのタイミングで追い打ちのように告げられるのが、諸矢監督の退任です。
さらに驚きの展開。後任として名前が挙がったのは、OBの甲斐真人。しかも彼は指導者経験がなく、競技の現場からも離れていた人物でした。
「本当に大丈夫なのか?」
選手もOBも、当然ざわつきます。
青葉は“関東学生連合”へ。甲斐は監督として現場に戻る
ここで青葉にもう一つの道が開きます。
予選会での記録が評価され、箱根本選に出場できる関東学生連合チームへの参加が決まるんです。
ただし、このチームは“選抜の寄せ集め”。しかもオープン参加扱いなので、総合順位も公式記録も「参考」とされる立場です。
つまり、普通に考えるとモチベが上がりにくい。
ところがここで甲斐が、さらに周囲をざわつかせる言葉を放ちます。
「本選で3位以上を狙う」
いやいや、学生連合で?しかも順位は参考扱いなのに?ツッコミたくなるんですが、甲斐は本気です。
「どうせ記録に残らないなら適当に…」ではなく、“それでもやる意味”を、チームに作ろうとする。
この瞬間から、学生連合は「集められたチーム」から「勝ちに行くチーム」へ、少しずつ姿を変えていきます。
もう一つの主役は“テレビ局の現場”
一方で、箱根駅伝の生中継を担う大日テレビも戦場です。
チーフプロデューサーの徳重亮は、放送の責任者として準備を進めるものの、上層部からの要求がどんどんエグくなっていきます。
たとえば「もっと視聴率が取れる“派手な仕掛け”を入れろ」とか、伝統ある箱根中継の空気を無視した“テコ入れ”の圧。
現場は「競技の本質を伝えたい」
上は「数字を取りたい」
このねじれが、じわじわ徳重を追い詰めます。
本番直前、センターアナ問題が起きる
箱根本番が近づいたところで、放送側に大きなトラブル。センターアナが急きょ降板し、代役が必要になります。
そこで名前が挙がるのが、ベテランアナの辛島文三。ただ、辛島は局内に因縁もあり、一筋縄ではいきません。
それでも徳重は、意地と責任で辛島を口説きます。辛島も最後には腹をくくり、箱根中継の“芯”として現場に戻る。
ここから放送サイドの物語が一気に熱くなります。
「何を、どう伝えるべきか」
ただの実況を超えた勝負に入っていくからです。
【下巻】箱根本番、学生連合が“想定外”の走りを見せる
いよいよ箱根駅伝がスタート。
下馬評では強豪校が主役。学生連合は、正直“注目されにくい立場”です。
徳重も当初、学生連合に十分な取材を割けていなかった。でも、レースが進むほどに気づかされます。
「あのチーム、ただの寄せ集めじゃないぞ」
学生連合の走りが、想像以上に“強い”。一人ひとりが、自分の大学の代表としてだけじゃなく、選抜チームとしての誇りを背負い始めている。
そこに追い打ちをかけるように、天候が荒れていきます。雪や雨、凍結の不安。箱根らしい過酷さが牙をむく。
悪条件はレースを乱すし、放送側も情報が足りないと詰む。
ここで効いてくるのが、辛島の取材と実況です。“うまいこと言う”より先に、競技の現実を掴んで言葉にする。中継が一気に締まっていきます。
アクシデントもある。それでもタスキはつながる
復路では転倒などのアクシデントも起きます。普通なら、そこで流れが切れてもおかしくない。
でも学生連合は、崩れそうで崩れない。甲斐の采配も効き、選手たちは「自分のため」だけじゃなく、「このチームのため」に走るようになっていきます。
箱根駅伝の怖さって、脚力だけじゃないんですよね。舞台の圧、天候、想定外、メンタル。全部まとめて襲ってくる。
その中で“自分を取り戻す瞬間”が、作品の見せ場として何度も来ます。
【結末】学生連合は2位でゴール。ただし“公式記録には残らない”
クライマックス、学生連合はついに総合2位相当でゴールします。寄せ集めのオープンチームが、箱根で2位。
めちゃくちゃ痛快なんですが、ここでこの作品らしい着地が入ります。学生連合はオープン参加なので、順位や記録は“参考扱い”。つまり、正式なランキングとしては残らない。
それでも、観た人の心には残る。記録じゃなく、記憶に焼き付く走りだった、という終わり方です。
そして学生連合の結果は、甲斐の評価を一変させます。周囲に認められ、彼は明誠学院大学の監督としてチームを率いていく流れになる。
一方で、諸矢前監督は闘病の末に亡くなり、この箱根をめぐる“タスキ”は次の世代へ渡されていきます。
読後に残るもの(この作品の強さ)

この物語が上手いのは、「努力すれば報われる」みたいな単純な話にしていないところです。箱根は残酷で、現実はシビアで、組織の理不尽もある。
それでも、走る。
それでも、伝える。
学生連合が“勝った”というより、「寄せ集めが、寄せ集めじゃなくなる瞬間」が胸を打つ。放送側も同じで、「中継はただの仕事じゃない」と取り戻していく。














