
映像作品での活躍を通じて、確かな評価を築いてきた吉田羊。
そのキャリアを丁寧に見つめると、ひとつの特徴が浮かび上がる。それは、知名度や評価が高まった後も、より厳しい表現の現場に身を置き続けてきたという点だ。
近年、その姿勢を象徴する取り組みが、シェイクスピア作品への継続的な出演である。
映像の第一線と並走する、舞台女優としての選択
テレビドラマや映画を中心に幅広い役柄を演じながら、吉田羊は舞台から距離を置くことがなかった。舞台は、編集やカメラワークに頼らず、台詞と身体、そして観客の反応だけで成立する表現の場である。
とりわけシェイクスピア作品は、言葉の密度や人物造形の複雑さから、演じ手の理解力と表現力が如実に問われる。その難度の高い作品群に、吉田羊は複数回にわたって挑んできた。
森新太郎との継続的なシェイクスピア上演
吉田羊が近年シェイクスピア作品に取り組む上で、重要なパートナーとなっているのが演出家の森新太郎である。
二人のタッグが広く認知されるきっかけの一つとなったのが、2021年上演の『ジュリアス・シーザー』だ。
この作品で吉田は、理想と現実の間で葛藤するブルータスを演じ、感情を抑制した演技で人物の内面を描き出した。
続く2024年上演の『ハムレットQ1』では、復讐心と懐疑の間を揺れ動くハムレット役に挑戦。
どちらの役も、激情よりも思考や迷いを重ねる人物像が印象に残る配役だった。
この流れを受けて上演されるのが、シリーズ第3弾となる『リチャード三世』である。
清廉な人物像の先にある「悪」への挑戦

『リチャード三世』は、シェイクスピアの歴史劇の中でも、特に強烈な悪のイメージを持つ人物を描いた作品だ。王位への執着、言葉による操作、そして孤独な最期。リチャード三世は、人間の欲望と歪みを凝縮した存在として描かれる。
森新太郎はこの人物について、露骨な暴力だけでなく、言葉によって他者を支配する存在として捉えている。その上で、これまでブルータスやハムレットといった比較的清廉な役を演じてきた吉田羊だからこそ、この役に説得力が生まれると語っている。
吉田自身も、リチャード三世を単なる悪役としてではなく、劣等感や孤独を抱えた人物として捉えていることをコメントで明かしている。嫌われ、裏切られ、最後には誰にも理解されないまま終わる存在。その闇に向き合うことが、今回の挑戦だと述べている。
経験を重ねた今だから選べる役柄

キャリアを重ねた俳優は、安定した評価を維持するために、選択が慎重になることもある。その中で吉田羊は、必ずしも安全とは言えない役柄にも挑戦してきた。
イメージを更新し続けること、そして自分自身の理解を深めること。その積み重ねが、シェイクスピア作品という難度の高い古典への継続的な出演につながっていると言える。
2026年上演の『リチャード三世』は、これまでの役柄とは性質の異なる挑戦であり、シリーズの中でも大きな転換点となる作品だ。
共演陣と公演スケジュール
本作には、愛希れいか、中越典子、赤澤遼太郎、増子倭文江、浅野雅博、篠井英介、渡辺いっけいらが出演。
経験豊富な俳優陣が、複雑な権力構造と人間関係を舞台上に立ち上げる。
公演スケジュールは以下の通り。
東京公演:2026年5月10日〜5月31日
会場:PARCO劇場大阪公演:6月6日・7日(森ノ宮ピロティホール)
愛知公演:6月13日・14日(東海市芸術劇場 大ホール)
福岡公演:6月20日・21日(久留米シティプラザ ザ・グランドホール)
岩手公演:6月27日(奥州市文化会館 Zホール)
チケット一般販売は、
東京・岩手公演分が2月28日、福岡公演分が3月7日、愛知公演分が3月14日、大阪公演分が5月10日に開始される。
なぜ今、吉田羊のシェイクスピアが注目されるのか
シェイクスピア作品が描くのは、時代や国を超えた人間の欲望や矛盾だ。それらは、演じ手の年齢や経験によって、受け取り方も表現も変化していく。
人生経験を重ねた今の吉田羊だからこそ、理性と衝動、善と悪の境界に立つ人物像に現実味が宿る。悪を演じることは、醜さを誇張することではなく、人間の弱さを観客に差し出す行為でもある。
吉田羊がシェイクスピアに繰り返し向き合う理由は、実績や評価以上に、「理解しきれない人間」を舞台上で探り続ける姿勢にあるのかもしれない。
吉田羊がシェイクスピアに選ばれ続ける理由──成熟期に入った女優の覚悟と挑戦
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