
視線を外した先に何があるのか――松下洸平、静けさで語る現在地
柔らかな物腰と落ち着いた佇まい。松下洸平と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、安心感のある存在感だろう。
一方で、近年の出演作を追っていくと、その印象だけでは捉えきれない“余白”が際立ってきている。感情を前面に押し出さず、あえて語らない。その選択が、観る側に想像の余地を残している。
役を「説明しない」というスタンス

松下の芝居は、分かりやすさを優先しない。視線の置き方、間の取り方、言葉の温度。そうした細部の積み重ねで人物像を立ち上げていく。今回、NHK大河ドラマ豊臣兄弟!で演じている徳川家康も、その延長線上にある役柄だ。
発表された公式コメントの中で松下は、脚本を手がける八津弘幸が「誰も見たことがない家康像」を描いていると語っている。
ニヒルで腹の底が見えないという従来のイメージに加え、ユーモラスで少し抜けた一面もある家康。その人物像を成立させるため、芝居では意識的に人の目を見ないようにしているという。視線を外した瞬間、家康が何を考えているのかは明示されない。だからこそ、視聴者は自然と考え始める。
“何を考えているのか分からない”を成立させる難しさ
感情を見せないことは、何もしないこととは違う。むしろ、極めて高い集中力と設計が必要になる。松下の家康は、黙っていても存在感が消えない。そこには、舞台で培ってきた身体感覚と、映像作品で磨かれてきた繊細なコントロールがある。
作中では、家康の近習・石川数正との会話がかみ合わない場面も描かれる。そのズレが笑いを生む一方で、「本心がどこにあるのか分からない」という印象を強めている。計算か天然か、その境界線が曖昧なまま進んでいく点が、この家康像の大きな特徴だ。
豊臣兄弟との対比が浮かび上がらせるもの
物語が進むにつれ、豊臣秀長と藤吉郎が台頭していく。その二人を演じるのが仲野太賀と池松壮亮だ。情熱で突き進む彼らと、慎重に状況を見極める家康。その対比が、画面に独特の緊張感をもたらす。
松下は公式コメントで、二人の芝居を「軽快でありながら、受けるとずっしり重い」と表現している。これは優劣の話ではなく、呼吸の合った芝居が生む重みについての実感だろう。家康が彼らの存在を脅威として意識し始める過程で、これまで抑えられていた感情が少しずつ表に出てくる。その変化をどう表現していくのかは、松下自身も楽しみにしている部分だという。
恩人であり、恐怖の象徴でもある存在
家康にとって、織田信長は複雑な存在だ。恩義を感じる一方で、逆らえない恐ろしさもある。その信長を演じるのが小栗旬である。松下はコメントの中で、小栗の信長について「360度どこから見ても信長そのもの」と語り、目が合うと圧倒されるほどの迫力を感じていると明かしている。
信長の傘下にある現在の家康は、まだ覇者ではない。越えられない存在を前にした歯がゆさや葛藤を、松下は大仰な表現に頼らず、抑制された芝居で滲ませている。その静けさが、後の展開を知る視聴者に強い予感を残す。
今の松下洸平が放つ吸引力

松下洸平の芝居は、観る側に委ねる部分が大きい。感情を断定せず、説明もしない。そのため、受け取り方は人によって異なるだろう。しかし、その“解釈の余地”こそが、彼の作品を繰り返し見たくなる理由でもある。
俳優としてのキャリアを重ね、舞台・映像の両方で経験を積んできた今、松下は役と距離を取りながら向き合う術を身につけている。穏やかに見える外側と、その奥に潜む読み切れなさ。その二層構造が、現在の彼の最大の魅力だ。
松下洸平が示す「余白のある演技」の価値
近年のドラマでは、強い言葉や激しい感情表現が注目されがちだ。その中で、松下洸平のように“語らない選択”をする俳優の存在は、作品の質感を変える力を持っている。
今回の公式コメントでも、松下は役柄について断定的な言葉を多用していない。「〜になれたらと思う」「想像して楽しんでほしい」といった表現からは、人物像を一つに固定しない姿勢がうかがえる。これは、歴史上の人物を演じるうえで、非常に誠実な向き合い方だ。
徳川家康という人物は、後世の評価が定まっているからこそ、描き方を誤ると平板になりやすい。しかし本作では、その“定まらなさ”をあえて残している。その中心で、視線や沈黙によって物語を支えているのが松下洸平だ。
派手な変化ではなく、じわじわと滲み出る違和感。その積み重ねが、物語が進むほどに効いてくる。今作を通じて、松下洸平という俳優の現在地を見届けることは、この作品を味わう大きな楽しみの一つになっていくだろう。
静かな視線の奥で何を企んでいるのか――松下洸平という俳優が今、最も面白い理由
視線を外した先に何があるのか――松下洸平、静けさで語る現在地 柔らかな物腰と落ち着いた佇まい。松下洸平と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、安心感のある存在感だろう。 一方で、近年の出演作を追っていくと、その印象だけでは捉えきれない“余白”が際立ってきている。感情を前面に押し出さず、あえて語らない。その選択が、観る側に想像の余地を残している。 役を「説明しない」というスタンス 松下の芝居は、分かりやすさを優先しない。視線の置き方、間の取り方、言葉の温度。そうした細部の積み重ねで人物像を立ち上げていく。今回 ...
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