
2026年2月11日。東京ドームに立ったのは、歌手でもアイドルでもなく、一人の女性コメディアンだった。
その名は、渡辺直美。
この日開催された単独公演「渡辺直美 (20) in 東京ドーム」は、女性ソロコメディアンによるコメディ公演として史上最多となるチケット販売枚数4万4356枚を記録。「Most tickets sold for a comedy show by a solo female comedian」としてギネス世界記録に認定された。来場者は4万5000人以上。数字のインパクトもさることながら、この公演が持つ意味は、彼女の20年という歩みと切り離して語ることはできない。
芸歴20年、その集大成としてのドーム公演
今回の公演は、単なる記念ライブではない。企画・脚本からコント内の楽曲プロデュースまでを渡辺直美自身が担当。デビューから現在までの活動を再構築し、一夜のエンターテインメントとして提示した。
若手時代から親交のある芸人仲間もサプライズで登場。
千鳥、又吉直樹、友近、ハリセンボン、シソンヌらが会場を沸かせた。笑いの応酬は同窓会的な空気にとどまらず、20年間積み重ねてきた関係性そのものを舞台上で可視化する時間だった。
さらに、朝日奈央と総勢70人以上のダンサーがステージを彩り、ドームはコントと音楽とダンスが融合する空間へと変化した。これは“芸人のライブ”という枠組みを超えた総合エンターテインメントだったと言える。
覆面アーティスト「Peach Nap」という新章
公演内で発表されたのが、覆面アーティスト「Peach Nap」としての活動だ。
音楽プロジェクトとして準備を進め、千葉雄喜とのコラボ楽曲「なにこれ?」を初披露。ジャンルを横断する試みは、芸人という肩書きに収まらない表現欲求の延長線上にある。
渡辺直美はこれまでもダンスやファッション、ビジュアルプロデュースなど多方面で活動してきたが、今回の発表は“芸歴20年目の新規スタート”とも受け取れる出来事だった。
ニューヨークを拠点にした挑戦

渡辺直美は2021年4月から活動拠点をアメリカ・ニューヨークに移している。日本で確立した人気やポジションを持ちながら、環境を変える選択をしたことは大きな話題を呼んだ。
海外でのスタンダップコメディ挑戦や英語でのパフォーマンス、グローバルブランドとの仕事。評価軸が変わる環境で活動を続けることは容易ではない。それでも彼女は活動の幅を広げ続けている。
今回の東京ドーム公演は“凱旋”というよりも、これまでの歩みと現在地を提示する場と捉えることもできる。20周年は区切りではあるが、活動の終着点ではない。むしろ次のフェーズへの通過点と見る向きもあるだろう。
なぜ渡辺直美は支持され続けるのか

渡辺直美が長期にわたり支持を得ている理由は、一つではない。
コント力だけでなく、演出、セルフプロデュース、SNS活用、ファッション表現など複数の要素を横断してきたこと。そして成功や失敗をエンターテインメントとして昇華してきた姿勢が、多くの共感を呼んできた。
芸人、女優、モデル、プロデューサー。肩書きが増えても、中心にあるのは“人を楽しませる”という軸だ。東京ドームのステージは、その積み重ねの結果として実現した場所だった。
女性ソロ芸人がドームに立つという意味
今回のギネス認定は、単なる動員記録の更新にとどまらない。女性ソロコメディアンによる公演として世界最多チケット販売枚数を達成したという事実は、日本のコメディ史の文脈でも象徴的だ。
日本のお笑い界では、コンビやトリオでの成功例は多い。一方で、女性芸人が単独でドーム規模を成立させる例は極めて少ない。巨大会場で成立させるには、笑いの技術だけでなく、構成力、演出力、集客力、ブランド力が総合的に求められる。
渡辺直美は、コントを中心に据えながらも、音楽、ダンス、ビジュアル、SNS発信を横断して活動してきた。その結果、“芸人のライブ”という枠を拡張し続けてきたと言える。今回の公演は、その延長線上にある到達点だった。
さらに注目すべきは、国内成功と海外挑戦を並行している点だ。日本での活動を続けながら、ニューヨークを拠点に英語でのパフォーマンスにも取り組む。安定と挑戦を同時に抱えるキャリア設計は簡単ではない。
覆面アーティスト「Peach Nap」の始動も、その姿勢の一端だろう。既存イメージを守るのではなく、新しい表現に踏み出す。20周年という節目にあえて“初めて”を重ねる選択は、拡張を続ける姿勢の象徴でもある。
東京ドームはゴールではない。
4万超の観客動員という数字は一つの成果だが、彼女のキャリアはそこで完結しない。
渡辺直美という生き方は、肩書きに縛られない拡張の物語だ。
そして2026年2月11日の東京ドームは、その物語の通過点として刻まれた。




