
2026年2月16日。
劇作家・演出家の蓮見翔が脚本・演出を手がけたダウ90000の舞台『ロマンス』が、第70回岸田國士戯曲賞を受賞した。
これまで第66回(2021年上演『旅館じゃないんだからさ』)、第68回(2023年上演『また点滅に戻るだけ』)で最終候補に選出されてきた蓮見にとって、三度目の候補入りでの初受賞となる。若手劇作家の中でも継続的に評価を受けてきた存在が、ついに戯曲賞という明確な形で認められた瞬間だった。
本記事では、蓮見翔という人物像に焦点を当てながら、『ロマンス』受賞が示す現在地と創作の進化を整理する。
岸田國士戯曲賞受賞という到達点
岸田國士戯曲賞は、劇作家・岸田國士の遺志を顕彰するために白水社が主催する戯曲賞で、現代日本の新しい戯曲を評価する場として長く続いている。
第70回では『ロマンス』のほか、石黒麻衣『季節』、大石恵美『よだれ観覧車』、川村智基『DOGHOUSE』、島川柊『ウテルス』、筒井潤『唯一者とその喪失』、額田大志『彼方の島たちの話』、メグ忍者『Eternal Labor』の計8作品が最終候補に選出。選考会は2026年2月16日に行われ、『ロマンス』と『よだれ観覧車』が受賞作に選ばれた。
授賞式は2026年5月11日(月)18時より、東京・神田神保町の日本出版クラブにて開催予定である。
この受賞は、コント的な軽やかさと演劇的構造を横断してきた蓮見の創作が、戯曲としての完成度という観点でも評価されたことを意味する。
『ロマンス』とはどんな作品か
『ロマンス』は2025年5月から11月にかけて、東京・大阪・金沢・福岡で上演された。
ダウ90000の特徴である群像会話劇のスタイルを踏襲しながら、人物同士の関係性の揺れや、言葉にしきれない感情の隙間を丁寧に積み重ねた作品である。笑いを含みつつも、会話の裏側にある微妙な距離感や、場の空気の変化が静かに描かれる構造が印象的だった。
これまでのダウ90000作品では、日常の些細な違和感やテンポのよい掛け合いが前景化していた。一方で『ロマンス』では、物語の設計や人物配置のバランスに、より強い構造意識が感じられる。単なる“面白い会話”にとどまらず、戯曲として読んでも立体的に立ち上がる強度が備わっていた。
三度目の候補で見えた創作の変化
蓮見翔はこれまで二度、岸田國士戯曲賞の最終候補に選出されている。
2021年上演『旅館じゃないんだからさ』(第66回最終候補)
2023年上演『また点滅に戻るだけ』(第68回最終候補)
いずれも高い評価を受けてきたが、受賞には至らなかった。今回の受賞は、単なる“積み重ねの結果”というだけでなく、作品の成熟度が明確に上がったことが背景にあると考えられる。
初期作品では、会話の妙やリズムの心地よさが強い魅力だった。一方『ロマンス』では、台詞の裏にある感情の流れや時間の経過がより精密に設計されている。笑いと沈黙のバランス、人物同士の心理的な距離の描写など、構造面での深化が見える。
“コントと演劇のあいだ”に位置してきた創作が、演劇賞の文脈でも評価されたことは、蓮見の作家性が一段階更新されたことを示している。
ダウ90000の中での蓮見翔

ダウ90000は、演劇とコントを横断するユニットとして活動を続けてきた。舞台公演だけでなく、映像企画やメディア出演など、活動領域を広げながら観客層を拡張してきた点も特徴である。
その中心で脚本・演出を担うのが蓮見翔だ。グループの作風や方向性を設計する立場にありながら、自身の劇作家としての評価も同時に積み上げてきた。
今回の岸田國士戯曲賞受賞は、個人としての成果であると同時に、ダウ90000の創作が純粋な戯曲としても通用することを示した出来事でもある。
若手劇作家の中での現在地

近年の若手劇作家には、社会的テーマを前面に押し出す作品と、日常のディテールを緻密に掘り下げる作品という二つの流れが見られる。蓮見翔は後者に軸足を置きながらも、会話のリズムと構造設計を組み合わせる点に独自性がある。
人物同士の微妙なすれ違い、冗談のあとに残る空気の変化、場の沈黙。その積み重ねが、観客に余韻を残す。大きな事件を描かずとも、人間関係の揺れを舞台上で立ち上げる技術が評価の対象になったと言える。
第70回岸田國士戯曲賞の受賞によって、蓮見翔は“注目の若手”という枠を越え、戯曲賞の評価軸でも語られる存在となった。今後どのようなテーマや形式に挑むのかはまだ明らかではないが、今回の受賞は一つの通過点であり、新たな局面の始まりでもある。
まとめ
・『ロマンス』は2025年5月〜11月に東京ほか4都市で上演
・第70回岸田國士戯曲賞(2026年2月16日選考)を受賞
・過去に第66回、第68回で最終候補入り
・会話劇の強みを保ちつつ、構造面での深化が評価された
蓮見翔の現在地は、コントと演劇の境界を横断しながら、戯曲としての強度を獲得した地点にある。今回の受賞は到達点ではなく、その進化を可視化した出来事と言えるだろう。






