
2026年1月にNHK総合で放送がスタートした『星野源と松重豊のおともだち』は、星野源と松重豊という異なるフィールドで活躍する2人が、「音楽」という共通言語を手がかりに各地を巡る紀行番組だ。放送時間は各回30分。だが、その密度は決して“軽い旅番組”ではなかった。
鎌倉、韓国、沖縄、そして最終章となる石川県・金沢と能登。わずか数カ月の放送期間でありながら、この番組はなぜここまで静かな余韻を残したのか。最終回を前に、全旅路を振り返る。
肩書きを外した2人が見せた「対等な時間」
この番組の魅力は、ミュージシャンと俳優という立場を前面に出さなかった点にある。星野源はアーティストとしての解説者ではなく、松重豊は名優としての語り手でもない。2人はあくまで“おともだち”として並び、同じ景色を見て、同じ音に耳を澄ませる。
会話は説明的になりすぎず、しかし決して曖昧ではない。音楽の話から、食、建築、記憶へと自然に広がる。その流れが心地よい。番組は常に「答え」を提示するのではなく、視聴者にも“考える余白”を残した。
鎌倉編——音を“探す”旅のはじまり
古都・鎌倉では、歴史と生活が混ざり合う街の中で、2人は環境の中に溶け込む音に耳を傾けた。観光地の喧騒の裏側にある静けさ。その空気の揺らぎが、番組のトーンを決定づけたと言っていい。
音楽はスピーカーから流れるものだけではない。風、足音、遠くのざわめき。番組は“聴く姿勢”そのものを提示した。
韓国編——言葉を超えるリズム

韓国では、言語や文化の違いを越えた音楽の力を体感する場面が印象的だった。街のリズム、店内に流れる楽曲、現地で交わされる会話。2人は“理解する”よりも“感じる”ことを優先する。
異国の地であっても、音楽が鳴れば自然と距離は縮まる。番組はそれを誇張せず、ただ静かに提示した。
沖縄編——土地と音楽の結びつき
沖縄では、音楽が生活と切り離せない存在であることが浮かび上がる。食事の場面でも、夜の空気の中でも、音楽は特別な演出ではなく日常にある。
星野と松重は、音楽を“消費するもの”ではなく“共有するもの”として扱う。そこに、この番組の誠実さがある。
金沢編——「音を鳴らさない」という選択

最終章・金沢編で2人が訪れたのは鈴木大拙の思想を伝える施設、鈴木大拙館。静謐な建築空間の中で耳を澄ませたのは、“音を鳴らさない”という発想の楽曲だった。
雨音、足音、遠くの気配。それらを“音楽として聴く”体験は、これまでの旅の集大成とも言える。番組はここで、「音楽とは何か」という問いを改めて提示する。
夜には焼き鳥店やスナックを訪れ、ネオソウルやR&Bを流しながら語り合う場面もあった。“まだ広く知られていないけれど素晴らしい音楽”について話す姿は、スター同士というより音楽好きの友人同士そのものだった。
能登編——雪景色と重なる名曲
能登へ向かう車窓に広がる雪景色。重なる名曲。穴水町で囲むちゃんこ鍋。2人は「食べることと音楽は同じくらい大事だ」と語り合う。
そして喫茶店で旅を振り返り、それぞれが“友”に向けた1曲を選ぶ。ここで重要なのは、その曲名そのものよりも、「誰かを思って選ぶ」という行為だ。
番組は最後まで、音楽を“関係性の中にあるもの”として描いた。
なぜこの番組は特別だったのか
派手な演出も大きなサプライズもない。それでも心に残るのは、2人が音楽を通して相手を尊重していたからだ。
評価やランキングではなく、「自分はこれが好きだ」と語る姿勢。押しつけない会話。説明しすぎない構成。その積み重ねが、静かな信頼感を生んだ。
『星野源と松重豊のおともだち』は、音楽番組でありながら、“聴くことの番組”だった。
テレビにおける「余白」の価値
近年のテレビ番組は、情報量の多さやテンポの速さが求められる傾向にある。テロップは増え、解説は丁寧になり、視聴者が迷わない構造が徹底される。その流れの中で、『星野源と松重豊のおともだち』は対照的な立ち位置を選んだ。
この番組は“説明しすぎない”。音楽の専門用語を並べ立てることも、感動を過剰に演出することもない。代わりにあるのは、沈黙と間だ。その間が、視聴者の思考を促す。
たとえば金沢編で提示された「音を鳴らさない音楽」というテーマ。これは一見抽象的だが、番組は答えを示さない。ただ2人が聴き、感じ、言葉を探す。その姿を見ることで、視聴者自身も“自分ならどう感じるか”を考える余地が生まれる。
また、「おともだち」というタイトルも示唆的だ。芸能界のキャリアや実績を前面に出すのではなく、対等な関係性を前提にしている。だからこそ、意見の違いも自然に受け入れられる。どちらかが優位に立つ場面はほとんどない。
音楽はしばしば「好き嫌い」で分断を生む。しかしこの番組は、好みの違いを否定せず、その違いを面白がる姿勢を見せた。そこにあるのは評価ではなく共有だ。
鎌倉の静けさ、韓国のリズム、沖縄の生活音、金沢の建築空間、能登の雪景色。土地ごとの空気を音と結びつけながら、番組は「聴くとは何か」を問い続けた。
最終回で選ばれる1曲は、ゴールではなく通過点だろう。旅は終わっても、音を聴く姿勢は日常に戻っていく。視聴者に残るのは曲名よりも、「耳を澄ませる時間」そのものだ。
情報があふれる時代に、あえて静かに語る。その選択こそが、この番組を特別な存在にした最大の理由なのかもしれない。
放送情報(最終回)
金沢編:NHK総合 2026年3月4日(水)23:00~23:30
能登編:NHK総合 2026年3月5日(木)23:00~23:30
旅の終わりに、あなたはどんな音を思い出すだろうか。
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