
映画館でよみがえる、オードリー・ヘプバーンの輝き
永遠のスクリーンアイコン――そんな言葉がこれほどしっくりくる俳優は多くありません。
時代が移り変わり、映画の鑑賞スタイルがより手軽になった今も、オードリー・ヘプバーンの作品は世代を超えて愛され続けています。今回開催される特別上映では、彼女の代表作ともいえる三作品が週替わりでスクリーンに登場します。配信では気づけなかった演技のニュアンスや、衣装の色彩、街並みの奥行きまで味わえる貴重な機会です。
上映されるのは『ローマの休日』『ティファニーで朝食を』『マイ・フェア・レディ』という、いずれもヘプバーンの魅力が異なる角度から立ち上がる名作ばかり。ここからは、それぞれの作品がなぜ今なお人々を魅了し続けるのか、その理由をひとつずつ辿っていきます。
『ローマの休日』(1953年)――自由を求めた一日の物語

王女アンが“責任”からひととき解放され、見知らぬ街を歩くその時間。たった一日の出来事を描いた物語なのに、観る側の胸には不思議な余韻が残ります。
ローマの街並みと柔らかなモノクロ映像が、ヘプバーンの無邪気さと気品をより引き立てます。
この作品で彼女はアカデミー賞主演女優賞を受賞し、一躍世界のスターへ。演技の細やかさ、感情の揺れ方、そして何よりスクリーンに映る佇まいが、多くの観客の心をつかんだ理由は今観ても十分納得できます。
『ティファニーで朝食を』(1961年)――都会に生きる女性のきらめきと影

オードリーと聞いてまずホリー・ゴライトリーを思い浮かべる人も多いでしょう。
華やかな社交界の空気を纏いながら、実は自分の居場所を探し続けている――そんな複雑で繊細な女性像を、彼女は軽やかさと脆さの両方で表現しています。ニューヨークの街のリズムとホリーの自由奔放さが重なり、その裏にある孤独がふっと顔を出す瞬間が胸に残ります。
ファッションアイコンとしてのヘプバーンが確立された作品でありつつ、今観ると“等身大の揺れる女性”としての深みがより鮮明に感じられるはずです。
『マイ・フェア・レディ』(1964年)――変化と気づきのミュージカル
下町の花売り娘イライザが、言葉と立ち振る舞いを学び、上流階級の場へと踏み出していく物語。
ミュージカル映画としての華やかさはもちろん、イライザの感情が少しずつ変化していく過程が丁寧に描かれています。
衣装の壮麗さ、場面ごとの色彩の豊かさは、映画館のスクリーンで観るとさらに迫力が増します。言葉が人を変えるのか、人が言葉に意味を与えるのか――そんなテーマに思わず考えが及ぶ作品です。
なぜ今、オードリー・ヘプバーンをスクリーンで?
配信やブルーレイで何度も観たことがある作品でも、劇場で観るとまったく異なる印象を受けることがあります。例えば、ヘプバーンのまなざしが切り替わる一瞬、衣装の質感、街のざわめき。それらは大画面だからこそ気づける繊細なディテールです。
また、今回の3作品は年代もジャンルも異なるため、彼女の演技の幅を一気に味わえるという点でも特別です。
『ローマの休日』の自然体、『ティファニーで朝食を』の都会的な表情、『マイ・フェア・レディ』のダイナミックな変身。その変化と共通点を並べて体験すると、ヘプバーンという俳優の“芯”がより立ち上がってきます。
上映情報
イベント名: オードリー・ヘプバーン~映画史に刻まれた永遠の輝き~
会場: TOHOシネマズ 日比谷、TOHOシネマズ なんば ほか全国で順次上映
日程:
- 2026年1月9日〜15日 『ローマの休日』
- 2026年1月16日〜22日 『ティファニーで朝食を』
- 2026年1月23日〜29日 『マイ・フェア・レディ』
どの作品も席が埋まりやすい傾向にあるため、予定が決まったら早めの予約が安心です。
まとめ
三つの作品を通して感じられるのは、ヘプバーンの“変わり続ける魅力”と“変わらない本質”の両方です。
自由を求める王女、都会の中で揺れ動く女性、新しい世界へ踏み出す娘――立場も性格も違うのに、どの人物にも観客が惹きつけられる理由があります。それは、彼女の存在感そのものが映画の中で「物語の温度」を変えてしまうからではないでしょうか。
スクリーンに浮かぶ彼女の姿を再び目にすると、映画が持つ時間旅行のような感覚をあらためて思い出します。
この冬、少し贅沢に“ヘプバーン三本立て”を味わってみてはいかがでしょう。
もう少し深く楽しむための小さな手引き
映画を観る前に少しだけ背景を知っておくと、作品の見え方が驚くほど変わります。
例えば『ローマの休日』が登場した1950年代は、ヨーロッパロケの作品が増え始め、観客に「映画で旅する体験」を提供し始めた時代でした。ローマの街が単なる背景ではなく、ストーリーそのものを形づくる“相棒”のように機能しているのは、この流れの象徴でもあります。
『ティファニーで朝食を』は、都市生活が華やかに描かれ始めた1960年代前後の空気が色濃く反映されています。ホリーは自由で魅力的に見える一方、社会の中で自分の居場所をどう築くのかという不安も抱えている人物です。この「華やかさと影」の同居は、当時の都市文化そのもののムードにも重なります。ファッションが物語のトーンを決めるほど重要な役割を持っている点にも注目したいところです。
ミュージカル大作としての『マイ・フェア・レディ』は、衣装や美術が主人公の変化と連動して進化していく点が大きな特徴です。イライザの言葉遣いだけでなく、姿勢や表情が場面ごとに変わっていくのを追っていくと、単なる“シンデレラストーリー”にとどまらない、人としての成長の物語が見えてきます。
また、上流階級の場面での視覚的な豪華さと、下町の風景の素朴さがはっきり対比されており、社会の階層構造まで自然と浮かび上がってきます。
三作品を並べて観ると、ヘプバーンがいかに“外見の華やかさ”だけでは語れない俳優なのかが実感できます。喜びや戸惑い、誇り、諦め、そして覚悟――彼女が演じるどの人物も、複数の感情を同時に抱えています。その複雑さを押しつけがましくなく表現できるのが、ヘプバーンの大きな魅力と言えるでしょう。
映画は観るたびに違う表情を見せます。心の状態によって、響くシーンも変わります。スクリーンで三作品を連続して観る今回のイベントは、ヘプバーンの魅力を“発見する楽しさ”と“再確認する喜び”の両方を味わえる絶好の機会になるはずです。観賞後には、作品同士のつながりや自分の感じ方の変化をぜひゆっくり振り返ってみてください。
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