「役を通して言葉が生きる瞬間に出会えた」
演じることに人生を捧げる俳優・綾野剛が、また一つ、自らの代表作となり得る役を手にした。
彼が今回挑んだのは、過去の傷と秘密を抱え、愛に臆病になった中年小説家という繊細で難解な人物だ。映画『星と月は天の穴』(2025年12月19日公開)で綾野が演じるのは、妻に去られて以来、心にぽっかりと穴を抱えたまま生きる男・矢添克二。
単なる恋愛映画ではない。
それは「文学と向き合う映画」であり、そしてなにより、綾野剛が“愛に敗れた男の美しさ”を描き出す挑戦でもある。
綾野剛という俳優の現在地
俳優・綾野剛と聞けば、多くの人は「ミステリアス」「鋭さ」「繊細さ」といった印象を思い浮かべるだろう。しかし、それだけでは捉えきれない深層が彼の演技にはある。
『怒り』や『新宿スワン』のようなエネルギッシュな役柄から、近年の『花腐し』(2023)に見られる静謐で内省的な演技まで──幅の広さと深みは、今や国内屈指の演技派俳優と言っていい。
今回もその真骨頂が遺憾なく発揮された。
彼が演じた矢添は、若さを失い、欲望も枯れかけた作家。娼婦との逢瀬に現実逃避し、心の空白を埋めようとするが、やがて一人の若き女性と出会い、揺れ動き始める。
欲望と愛の境界線を彷徨う男──綾野剛にしか演じられない役だ。
なぜこの役を受けたのか? “言葉”との格闘に惹かれて
脚本・監督を務めたのは、日本映画界の重鎮・荒井晴彦。キネマ旬報脚本賞を5度受賞し、『火口のふたり』『花腐し』などで文学性と映像表現の両立を追求してきた人物だ。
荒井監督とは『花腐し』以来の再タッグ。
綾野はこの機会に、「脚本に導かれたその過程は、役者人生においても唯一無二の体験だった」と語っている。
「噛めば噛むほど、呑めば呑むほど、台詞が“生きた言葉”になる瞬間があった。あれは脚本と役が共鳴した奇跡でした」
と綾野がコメントするように、本作は“言葉”と真剣に向き合う映画だ。
文学作品を原作とする以上に、“台詞そのもの”に命を吹き込む必要がある。
そのプロセスこそが、彼をこの役へと駆り立てた。
共演者たちが語る、現場での綾野剛
共演者たちの証言からも、綾野の「演技だけでない視点」が浮かび上がる。
千枝子役の田中麗奈はこう語る。
「剛くんは現場で多くのアイデアを出し、それを荒井監督も楽しんでいるのが伝わってきました。演者としてだけでなく、“作品の目線”を持った視野の広さを改めて感じました」
さらに、新人の咲耶も「頼りがいのある先輩だった」とその姿勢に敬意を示す。
若手からベテランまでを巻き込み、作品全体を俯瞰して導いていく姿は、まさに綾野剛という俳優の“成熟”を象徴している。
「愛」を演じることへの覚悟
映画の原作は、吉行淳之介の純文学小説『星と月は天の穴』(講談社文芸文庫)。
「性」と「精神」が交錯する世界を、あえて避けずにまっすぐ描いた問題作だ。
主人公・矢添は、愛を信じたいが信じきれない。
女性を愛しているのか、ただ欲しているだけなのか、自分でも分からない。
そんな男が、一人の女子大生との出会いを通じて、心の深淵に向き合っていく。
「男の孤独」「欲望の虚しさ」「言葉にできない心の揺れ」──
綾野剛はこれらすべてを、表情、間、呼吸、沈黙の中に滲ませた。
なぜ今、綾野剛がこの役を演じるのか?
キャリア20年近くを迎える今、綾野剛は「演じる」という行為の本質に迫ろうとしている。
それは派手なアクションや大作映画ではなく、“人間を深く描く作品”との対話だ。
矢添という人物を通して彼が描いたのは、単なる恋愛でも性愛でもない。
それは「言葉にできない感情を、演技で語る」という試みだった。
▶ 綾野剛のこれまでと、次に見据えるもの
綾野剛は、2003年に俳優としてキャリアをスタートさせて以来、常に“演技の振り幅”で注目されてきた。
仮面ライダーシリーズでのブレイクを経て、社会派、ラブストーリー、アクション、コメディとジャンルを問わず活躍。
特に、内面の葛藤や“心の傷”を抱えたキャラクターを演じたときに、その魅力は一層引き立つ。
近年では、より内省的で文学的な作品への出演が増えている。
『花腐し』に続く荒井作品への出演は、まさにその流れの延長線上にある。
彼自身もインタビューなどでたびたび語っているが、「セリフに感情を乗せることより、言葉が“にじむ瞬間”にこそ演技の醍醐味がある」と考えている。
つまり、説明的な芝居ではなく、観客に“空気ごと届ける”演技だ。
こうした表現力を求められる作品は、派手な話題にはなりにくいかもしれない。
だが、綾野剛は“この瞬間の演技”こそが、映画という表現の本質だと信じている。
ファンの間ではすでに、「綾野剛=映画で真価を発揮する俳優」との評価が定着しつつある。
本作は、その評価をさらに決定づける一本になるだろう。
そして今後──彼はどこへ向かうのか。
演劇、インディペンデント映画、海外作品への挑戦など、まだ見ぬ綾野剛の表現領域は多い。
だが確かなのは、「綾野剛という俳優は、次のフェーズに入った」ということだ。
綾野剛が“愛に翻弄される男”をどう演じたのか。
それは、演技という行為の奥深さを、観る者に静かに突きつける体験でもある。
この冬、彼の“唯一無二の体験”を、劇場で見届けてほしい。
【作品情報】
映画『星と月は天の穴』
- 公開日:2025年12月19日(金)
- 原作:吉行淳之介『星と月は天の穴』(講談社文芸文庫)
- 脚本・監督:荒井晴彦
- 主演:綾野剛
- 出演:咲耶、田中麗奈、柄本佑、岬あかり、MINAMO、宮下順子 ほか
- 配給:ハピネットファントム・スタジオ
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