2025年9月、『ベートーヴェン捏造』が劇場公開される。
脚本を手がけるのは、今や脚本家としての評価もうなぎ上りのバカリズム。
『架空OL日記』『ブラッシュアップライフ』で見せた独自の世界観、そして"優しい笑い"から"黒い笑い"へ――。
この新作は、バカリズムの“原点回帰”とも言える、新たな代表作となる可能性を秘めている。
常識を覆す“ベートーヴェン”という挑発
本作『ベートーヴェン捏造』は、聖人のように語り継がれてきた作曲家・ベートーヴェンを真っ向から揺るがす。
下品で身なりも悪く、実像は「偉人」とはかけ離れていた――。そんな男を、秘書がプロデュースして“天才ベートーヴェン”という虚構が生まれた、という大胆な物語だ。
この構造、どこかで見覚えがないだろうか?
そう、これはまさにバカリズムが得意とする「崩し」と「構築」の美学。シリアスな題材の中に、思わず笑ってしまう“毒”が潜んでいる。それはただの風刺ではなく、どこか人間臭く、哀愁すら感じさせるユーモアだ。
脚本家バカリズム、“笑いの質”で次元が変わった
バカリズムの脚本家としての本格的なブレイクは、やはり『架空OL日記』だろう。
女性会社員の日常をユーモアたっぷりに描いたこの作品は、「なぜ男性芸人がここまでリアルな“女の会話”を描けるのか」と話題に。だが、その後の『ブラッシュアップライフ』で、彼はさらなる進化を遂げる。
SF的なタイムリープ要素と、地元の友人たちとの何気ない会話――。
ありふれた日常の裏にある“やり直したい人生”というテーマを、笑いと共に描き出したその手腕は、まさに現代版の『トトロ×パラドックス』とも言えるほど。
あの作品で「脚本家バカリズム」というブランドは確立された。
“映画脚本”でこそ光る、コンセプトと毒の融合
テレビドラマで高評価を得たバカリズムだが、映画となると制限も少ないぶん、その“世界観”の完成度が問われる。
『ウェディング・ハイ』のような群像劇でも巧みにキャラクターを配置した彼が、次に選んだのが「偉人を崩す」という超コンセプチュアルな題材なのは象徴的だ。
“ベートーヴェン=ダメ人間”という発想は、一歩間違えれば不謹慎。だが、そのギリギリを笑いに変えるのがバカリズムの真骨頂だ。
『ベートーヴェン捏造』は、いわば「芸人脚本家」としての集大成であり、映画というフォーマットでそれを炸裂させるチャンスでもある。
三谷幸喜・宮藤官九郎との違いは“設計力”
バカリズムはよく、三谷幸喜や宮藤官九郎と比較される。
確かに、会話劇の巧みさや笑いのセンスは共通しているが、バカリズムの武器は“コンセプトを起点に物語全体を設計する力”だ。
ドラマでは制約が多くても成立するこの手法は、映画という自由度の高いフィールドでこそ、本領を発揮する。
今回の『ベートーヴェン捏造』で見せる「奇抜さの中の論理性」は、まさにその設計力の賜物だろう。
『ベートーヴェン捏造』公開情報
項目 | 内容 |
---|---|
公開日 | 2025年9月12日(金) |
脚本 | バカリズム |
監督 | 関和亮 |
出演 | 山田裕貴、古田新太 ほか |
原作 | かげはら史帆『ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく』(河出文庫) |
配給 | 松竹 |
制作 | Amazon MGMスタジオ、松竹 |
公式サイト | https://movies.shochiku.co.jp/beethoven‐netsuzou/ |
公式X | @beethoven_movie |
@beethoven_movie |
🔍バカリズム脚本に通底する“哲学”とは?
バカリズム作品に共通するのは、「何気ない日常」に潜む“異物”を見逃さない感覚だ。
『ブラッシュアップライフ』ではそれが“人生のやり直し”だった。『ホットスポット』では“普通の人間が宇宙人と生活する”というズレが軸になった。
今回の『ベートーヴェン捏造』で描かれるのは、「偉人の中身が実はしょうもない」という“ズレ”。
そしてこのズレは、単なるギャグでは終わらない。
視聴者の中にある「偶像を信じたい」という気持ちを静かに裏切り、「人間って、実はしょうもないくらいがちょうどいい」と肯定する力を持っている。
それこそが、バカリズム脚本の魅力であり、現代のストレス社会においてこそ効く、やさしい処方箋なのかもしれない。
🎬 次にバカリズムが描くのは、大河か朝ドラか――。
その前に、まずはこの“黒い笑い”の真価を、劇場で確かめてみてほしい。