
静かに夜空へ浮かぶ月は、どんな時でも同じ場所にあって、誰の人生にも寄り添ってくれる存在です。映画『平場の月』が描くのは、そんな“変わらないもの”と“変わり続けてきた人生”が交差する瞬間。
堺雅人と井川遥が再会を演じるこの作品は、派手さよりも、じわりと沁みる時間が観客の胸を照らします。
原作の読後感を大切にしながら、映画ならではの視点をどう描くのか。ここでは、物語を“月”という象徴を通して読み解きつつ、あらすじやキャスト、制作陣の魅力まで丁寧に紹介していきます。
▼ 作品概要
- タイトル:『平場の月』
- 公開日:2025年11月14日
- 原作:朝倉かすみ『平場の月』(光文社文庫)
- 監督:土井裕泰
- 脚本:向井康介
- 主演:堺雅人、井川遥
日常の小さな揺らぎや、人と人が再び向き合う時間を撮らせたら右に出る者はいない土井裕泰監督。そこに『ある男』の向井康介の静かな筆致が重なったことで、原作が持つ“余白”まで大切にした世界観が期待されています。
月の視点で読む『平場の月』とは?
タイトルにもなっている“平場の月”。原作を読んだ人なら、平凡な町の上に昇る月こそが、登場人物の心持ちを象徴していると気づくはずです。
青砥健将(堺雅人)と須藤葉子(井川遥)が再び出会うのは、どちらも人生が大きく明るくも暗くもない“平場”に落ち着いた頃。月は決して眩しすぎず、しかしそこに確かに存在して、少しだけ世界を優しくする。そんな月の光のような関係が、2人の物語を静かに包み込みます。
映画『平場の月』あらすじ

妻との離婚を経て、青砥は故郷の町に戻り、印刷会社で働きながら淡々とした日々を送っています。ある日、体調不良で訪れた病院で、中学時代に思いを寄せていた須藤葉子と再会。彼女は夫と死別し、パート勤務で生計を支えながら暮らしていました。
久々に交わした会話は驚くほど自然で、2人は再び距離を縮めていきます。中学生の頃には説明できなかった気持ちが、ゆっくりと形を取り始める——。
しかし未来を語り合うようになった2人に、避けられない影が忍び寄ります。
原作小説のネタバレ解説(※ここから先は結末に触れます)

朝倉かすみの原作は、2018年の刊行以来20万部を超え、山本周五郎賞を受賞した評価の高い作品。映画もこの物語の骨格に忠実に、人物の繊細な揺れを丁寧に描きます。
青砥と葉子は再会をきっかけに互いの孤独や不安を少しずつ埋め合いますが、葉子は検査の結果、大腸がんを患っていることが判明します。治療を経て青砥との同居生活を送りますが、病は再び彼女を蝕み、未来に希望を抱くことを難しくしていきます。
青砥のプロポーズを断った葉子は「頼り切ってしまう自分が許せない」と距離を置き、青砥とは“1年後に会う”約束だけを残して連絡を絶ちます。しかしその願いは叶いません。1年が過ぎた頃、青砥は葉子がすでに亡くなっていたことを知らされます。
青砥が見上げた夜空の月は、2人の時間の証として、ただ静かにそこにあり続けます。
見どころ|大人の恋愛映画の“静けさ”をどう描く?
大人の恋愛映画は、派手な展開がなくとも観た者の心を揺らします。『平場の月』もまさにその一つ。
- 人生の折り返しに差し掛かった人だけが感じる切実さ
- 若さゆえの勢いとは違う“選ぶことの重み”
- 相手を思うからこそ踏み出せない愛情のあり方
土井監督はこういった「音にならない気持ち」を映像で描くことに長けています。月明かりのように淡い優しさと、影が落ちる瞬間。その両方が同居する作品になるでしょう。
主演・堺雅人の“現在”が役に深みを与える
堺雅人が現代ラブストーリーで主演を務めるのは意外にも本作が初。『半沢直樹』や『VIVANT』で鋭いキャラクターを演じてきた彼が、今回は力の入りすぎない、ごく普通の50代男性を演じます。
井川遥と再び共演するのも話題のひとつ。2人の間に流れる「言葉にしなくても伝わる距離感」が、作品の静かな世界にしっかりと息を吹き込むはずです。
豪華スタッフ陣
- 監督:土井裕泰
『花束みたいな恋をした』『罪の声』など、生活の中にある一瞬のきらめきを切り取る名手。 - 脚本:向井康介
『ある男』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞。繊細な心理描写に定評があります。
映像と脚本の相性が良いこの2人が組むことで、原作の魅力を損なわずに映画としての“呼吸”を作り上げています。
キャスト
- 青砥健将:堺雅人
- 須藤葉子:井川遥
- 江口剛:大森南朋
- 中村ゆり、でんでん、吉瀬美智子、宇野祥平ほか
役名未発表のキャストが多い中、物語に深みを与える俳優陣が揃い踏み。観る前から「静かな人間ドラマ」を期待できる布陣です。
月というモチーフが物語にもたらすもの――“平場”の意味を再考する
『平場の月』というタイトルを改めて眺めてみると、実はこの作品の本質が凝縮されています。“平場”とは、特別ではない場所。坂道や段差のない平らな土地のように、誰もが立てる場所のことです。
若い恋愛を描く物語では、登場人物はよく坂道や階段を駆け上がります。そこには未来へ向かう意欲や、わからないものへ飛び込む無邪気さが込められています。それに対して、本作の舞台となるのは、人生の高低差をひと通り経験してきた人が立つ“平場”。
登ることも降りることも経験したからこそ、今は「平らな場所を歩く」選択をしている人たち。その選択自体が尊いのだという視点を、この作品は大切にしています。
正直なところ、平場に立っている時の景色は派手ではありません。けれど、月だけはどこからでも同じ高さに見える。夜空に昇る月を見上げるとき、人はみな同じ目線に立つことができます。これは原作から映画へと受け継がれた、とても象徴的な構造です。
青砥と葉子が再会した時、2人は人生の歩幅を合わせられるような状態にありました。どちらも過去に大きな痛みを抱えているけれど、それを声高に語らない。だからこそ、相手の沈黙の意味に気づける。月明かりのように強く主張しないのに、確かにそこに存在して相手の輪郭を浮かび上がらせる。そんな関係が自然と生まれていく様子が『平場の月』の肝となっています。
特に映画では、月の光が画面にどう描かれるのかが注目点です。月は晴れた夜ばかりでなく、曇りの日でも輪郭だけは見えたりします。光の強さが日によって変わるように、2人の距離も近づいたり離れたりを繰り返します。恋愛というより、生き方そのものを照らし返すような象徴として機能しているのです。
また、月には満ち欠けがあります。原作の終盤にかけて葉子の体調が揺らぐ場面や、青砥の心に生まれる焦燥は、まるで欠けゆく月のようでした。満月のように明るい未来は長く続かないかもしれない。それでも彼らは足元の道を互いに照らし合おうとした。この姿勢が本作の大人の恋愛の魅力であり、若さとは違う“覚悟の温度”だと感じます。
月は、遠くから静かに見守るだけで何も言いません。でもそれで十分に力がある。
青砥が最後に見上げた月は、決して悲しみだけを象徴していたわけではないでしょう。生きてきた証も、叶わなかった想いも、共有した時間も、すべてが夜空へ溶けていくような、どこか救いを感じさせる光だったはずです。
映画としてこの解釈がどう描かれるか。照明や画角、夜のシーンの温度感——そのすべてが“平場”という視点をどう見せるかにかかっています。月の下に立つ人間の姿を見つめる作品である以上、観客にも「自分の平場とはどこだろう」とそっと問いかける時間になりそうです。

平場の月 (光文社文庫)
第32回山本周五郎賞受賞作!朝倉かすみ(あさくら・かすみ)
1960年生まれ。2003年「コマドリさんのこと」で第37回北海道新聞文学賞、'04年「肝、焼ける」で第72回小説現代新人賞受賞。'09年に『田村はまだか』で第30回吉川英治文学新人賞を受賞。'17年、『満潮』で第30回山本周五郎賞候補、'19年、本作で第161回直木賞候補、第32回山本周五郎賞受賞。
『平場の月』映画版を月の視点から読み解く|原作あらすじ・ネタバレも紹介
静かに夜空へ浮かぶ月は、どんな時でも同じ場所にあって、誰の人生にも寄り添ってくれる存在です。映画『平場の月』が描くのは、そんな“変わらないもの”と“変わり続けてきた人生”が交差する瞬間。 堺雅人と井川遥が再会を演じるこの作品は、派手さよりも、じわりと沁みる時間が観客の胸を照らします。 原作の読後感を大切にしながら、映画ならではの視点をどう描くのか。ここでは、物語を“月”という象徴を通して読み解きつつ、あらすじやキャスト、制作陣の魅力まで丁寧に紹介していきます。 ▼ 作品概要 タイトル:『平場の月』 公開日 ...
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