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令和の“昭和男”と料理女子─ 『じゃあ、あんたが作ってみろよ』第1話で見えたズレと再生

2025年10月8日

令和の“昭和男”と料理女子─ 『じゃあ、あんたが作ってみろよ』第1話で見えたズレと再生

東京タワーを望む夜景が輝く高級フレンチ。差し出されたのは王道のダイヤモンドリング。

まるで完璧な恋のクライマックスを思わせる場面で、鮎美(夏帆)はただ一言、こう返す。

「無理」

ここから幕を開けるのが、TBS系ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』第1話だ。

一見、理想のカップル──地方の大学で“ミス・ミスターコン”を制した2人。

彼氏の勝男(竹内涼真)は大手メーカー勤務、彼女の鮎美は商社の受付。

誰もが羨むような安定とバランスを持つカップルに見える。

だが、その“完璧さ”こそが、崩壊の始まりだった。

古風すぎる男・勝男の“ズレた常識”

勝男は、いわゆる「昭和の理想の男」を信奉してやまないタイプ。

「弁当は冷凍食品じゃなく手作りが当然」「カレーのルーは使うな」「昼は米を食え」──

そんな信条を、悪気なく他人にも押しつける。

後輩が「うちでは料理は僕の担当で」と話しても、「彼女が作ってくれないんだな」と即断。

話を最後まで聞かずに、自分の“正しさ”で世界を塗りつぶしてしまう。

彼がこの価値観を疑わずに来られたのは、モテ続けてきたからだ。

誰かに修正される機会がないまま、家庭的な母親像と支配的な父親像をそのまま引き継いでしまった。

それが、現代社会では“痛さ”として浮き彫りになる。

変わりゆく鮎美──「尽くす幸せ」からの脱却

令和の“昭和男”と料理女子─ 『じゃあ、あんたが作ってみろよ』第1話で見えたズレと再生

勝男に尽くすことが自分の愛情表現だと信じていた鮎美。

だが、同棲を続けるうちに「愛してもらうより、愛されるべき存在でいたい」という本能が目を覚ます。

彼女が髪をピンクに染めた時、それは単なるイメチェンではなく、生き方の再起動だった。

黒髪で“清楚”を演じ、口角を無理に上げていた頃の自分を、もうやめたい。

それが鮎美の「無理」に込められた真意だ。

“痛さ”の奥にある、勝男のかわいげ

令和の“昭和男”と料理女子─ 『じゃあ、あんたが作ってみろよ』第1話で見えたズレと再生

そんな勝男にも、どうしても憎めないところがある。

後輩に「自分で作ってみたら元カノの気持ちがわかる」と言われ、

本当に筑前煮を作ってみるのだ。

しかも、出来上がった弁当を会社に持参し、後輩に食べさせて感想を求める。

ここまで来ると、不器用を通り越して愛らしい。

「めんつゆは邪道」と豪語した直後、

「じゃあ自分で作ってみたら?」と返された途端、

一からだしを取り始める素直さもまた、彼の魅力だ。

竹内涼真は、この“痛さ”と“かわいげ”の絶妙なバランスを見事に表現している。

嫌味にならず、むしろ人間らしい温かさがにじむ。

令和が問い直す「家事と愛情」のかたち

このドラマが鋭いのは、単なる恋愛ドラマの枠にとどまらない点だ。

勝男のような「昭和的愛情観」が、いまも私たちの中にどこか残っていることを暴き出す。

「愛しているなら、相手のために尽くして当然」

「料理は女のたしなみ」

──そんな言葉が、どこか懐かしくも息苦しい響きを持って蘇る。

だが本作は、そうした価値観を否定するだけではなく、

“どうすれば変われるのか”という問いを提示している。

「俺、変わりたい」

勝男のこの一言に、令和の恋愛が向き合うべきテーマが凝縮されている。

再生への一歩──ズレから始まる理解

鮎美と勝男は、互いを補う関係ではなく、互いの偏りを強めてきた関係だった。

それでも、完全に終わりではない。

勝男が台所に立ち、初めて“誰かのために作る”ことを学ぶ。

そこに、人が変わるきっかけの尊さがある。

ズレは、壊すこともあるが、再生の種にもなる。

『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は、その微妙な境界線を丁寧に描く。

ドラマが描く“ジェンダーアップデート”の現在地

本作の根底に流れるのは、「家事・恋愛・性別役割」の再定義だ。

SNSでは「わかる」「いるよねこういう人」「でも嫌いになれない」と、共感と苦笑が入り混じった声が相次いでいる。

脚本がリアルなのは、勝男のような人を単なる“時代遅れの悪役”として描かないこと。

彼の“古さ”の裏には、家庭環境や社会通念という見えない背景がある。

そして、鮎美の変化の裏には「自分の人生を自分で作りたい」という、現代女性の静かな決意がある。

第1話は、その二人の“別れ”を通して、

「愛とは、支配ではなく共に作るもの」というメッセージを投げかけている。

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この記事を書いた執筆者・監修者
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ポプバ ドラマ部:佐伯・Pちゃん

脚本家の視点でドラマを深掘る、雑食系オタクライター。
幼少期からドラマと映画が大好きで、物語を追いかけるうちに自然と脚本を書き始め、学生時代からコンクールに応募していた生粋の“ストーリーマニア”。現在はドラマのレビュー・考察・解説を中心に、作品の魅力と課題を両面から掘り下げる記事を執筆しています。
テレビドラマは毎クール全タイトルをチェック。「面白い作品だけを最後まで観る」主義で、つまらなければ途中でドロップアウト。その分、「最後まで観る=本当に推したい」と思える作品だけを、熱を込めて語ります。
漫画・アニメ・映画(邦画・洋画問わず)にも精通し、“ドラマだけでは語れない”背景や演出技法を比較的視点で解説できるのが強み。ストーリーテリング、脚本構造、キャラクター心理の描写など、“つくる側の目線”も織り交ぜたレビューが好評です。
「このドラマ、どう感じましたか?」を合言葉に、読者の感想や共感にも興味津々。ぜひ一緒にドラマの世界を深堀りしていきましょう!