2025年7月。
『怪獣8号』が全16巻で完結したというニュースが飛び込んできた時、私はしばらく画面の前で固まっていた。
「……えっ? 今、終わるの?」と。
物語は終わった。でも、感情は置き去りのまま。
今もこの作品を思うたび、胸の中にモヤモヤとした想いがうずまく。
これは単なるレビューじゃない。ひとりの読者として、どうしても書き残しておきたい"好き"の記録だ。
夢中にさせてくれた、あの頃の『怪獣8号』
『怪獣8号』がジャンプ+で連載をスタートしたのは2020年。
あの頃、漫画界では“難解さ”や“深読み必須”な作品、流行りやトレンド物が持てはやされ、エンタメ性のど真ん中に位置する作品は少なかった。そんな時代に、この作品は登場した。
派手な戦闘シーン、熱い友情、キャッチーな怪獣設定、誰にも好きな推しキャラが出来るほど多彩なキャラ。
序盤の時点で「これだよ、これが読みたかったんだ!」と声に出したくなった。
日比野カフカという、32歳の冴えないおじさんが、怪獣に変身して戦うという設定もユニークだった。
ただの能力バトルではない。"夢を追い続けられなかった大人のリベンジ"というドラマ性に、私はすっかり心を掴まれてしまった。
毎週毎週が楽しみ。人生の10分の1はこの為に生活していたかもしれない。
人気が加速するほど、見えてきた違和感
連載が進むにつれて、世間でも話題になるようになった。
アニメ化の発表、展示会、コラボイベント、グッズ展開。ファンとしては誇らしい……はずだった。
でも、正直なところ、ちょっとしたズレを感じ始めていた。
「アニメ化の発表は嬉しいけど、本編のテンポ、最近ちょっと雑じゃない?」
「コラボ展示のビジュアルはカッコいいけど、あれ? 前話の作画ちょっと荒れてなかった?書き込み少なくない?」
気づけば、作品そのものよりプロモーションばかりが前に出ている気がしていた。
きっと仕事も多方面で忙しくなっていたはずだ。
もちろん、アンチが増えるのは人気作の宿命だ。
擁護したい気持ちは山々。でも同時に、読者として“なんか違うかも”という違和感も、確かに存在していた。
まさかの完結。なぜこんなにモヤモヤするのか?
そして訪れた「完結」の二文字。
終盤は駆け足で展開され、主要キャラの心情もやや置き去り。
「これって、打ち切りだったの?」「作者、疲れちゃったのかな?」
そんな憶測が飛び交うのも無理はなかった。
私は、物語が終わったこと自体よりも、その“終わり方”にこそ納得がいかなかった。
だって、まだ描けることは山ほどあったはずだ。
防衛隊内部の複雑な人間関係、たくさんの人気キャラ達のバックボーンや生活、内面。
ミナとの過去と現在、そしてカフカが“その後”どうなっていくのか。
どれも中途半端に触れられたまま、未消化のまま、幕が下ろされたように感じた。
正直、「あぁ、惜しいな、勿体無いな、でも仕方ないのか?」と思った。
もっと大事に、じっくりと、丁寧に育てていけば、もっと奥行きのある名作になれたのでは? という思いがどうしても拭えない。
もしかすると、作者の中で描ききる体力やモチベーションが尽きてしまったのかもしれない。
あるいは、他に描きたい作品ができたのかもしれない。
でも、ファンとしてはやっぱり思ってしまう。
「本当に、これが限界だったの?」
ゲーム配信が楽しいからこそ、感じる“別物感”
完結から間を置かずにリリースされた『怪獣8号』のスマホゲーム。
私は即インストールして、今では毎日のようにプレイしている。
オリジナルストーリーや新キャラクター、バトル演出も凝っていて、めちゃくちゃ楽しい。正直、どハマり中だ。(機会があればぜひ一緒にプレイしましょう!)
でも、どこか冷静な自分もいる。
「これはこれで面白い。でも、これは本編ではない」
あくまで世界観を借りた“派生作品”。
そこにカフカがいても、それは“本編を終えた後の彼”ではない。別の時間軸を生きるキャラのように感じてしまうのだ。
新キャラも魅力的だが、パラレルワールドに感じてしまう。
でも、私がずっと見たかったのは――「あの物語」だった。
それでも私は『怪獣8号』が好きだ
こんなに複雑な感情を抱えているのに、ふとした瞬間にカフカのセリフを思い出す。
「俺はまだ、諦めてねぇぞ。」
あの一言に、どれだけの勇気をもらったか。
夢を諦めた大人に向けて、真正面から投げかけられたメッセージ。
『怪獣8号』は間違いなく、私の中で“特別な一冊”になった。
だからこそ、言わせてほしい。
終わり方が物足りなかった。
もっと描いてほしかった。
でも、それでも――この作品が存在してくれたことに、感謝している。
未完の完成、そして“続き”は私たちの中に
『怪獣8号』は、たしかに完結した。
でも、ファンの中では、まだ物語が動いている。まさかの続編はないか?
未練があるのは、それだけ心を動かされた証拠だ。
もしかすると、続編はもう来ないかもしれない。
でも、私たちが感じたあの熱狂や感情は、何にも代えがたいものだ。
物語は終わっても、作品は生き続ける。
未完に見えるエンディングも、私たちが想いを寄せる限り、そこも含めてこの作品は“完成”したとも言えるかもしれない。