
深夜ドラマという枠にありながら、放送前から静かな注目を集めているのが、**今日もカレーですか?**だ。
カレーを題材にした作品は数あれど、本作が放つ空気は少し違う。おいしさを競わず、人生を断定せず、誰かの価値観をジャッジもしない。ただ「今日、何を食べるか」という極めて個人的な選択を、物語の中心に据えている。
なぜこの作品は、派手な展開がないにもかかわらず心に残るのか。その答えは、原作が持つ思想と、ドラマ化によって可視化された“今の感覚”の重なりにある。
原作『今日もカレーですか?』が描いてきた「食の距離感」

原作は、藤川よつ葉・あづま笙子による漫画『今日もカレーですか?』。
物語の出発点は、地方から上京してきた女子大生・黒部ちなが、カレーをこよなく愛する遠藤夏美と出会うことから始まる。
この作品がユニークなのは、カレーを「特別なごちそう」として描かない点だ。外食でありながら日常的で、気軽でありながら奥が深い。そんなカレーの立ち位置が、そのまま人間関係の距離感に重ねられている。
仲良くなりたいけれど踏み込みすぎたくない。理解したいけれど、完全には分かり合えない。原作は、そうした曖昧な感情を、説明過多にならない温度で描き続けてきた。
ドラマ版が選んだ「実在の店」というリアリティ

ドラマ版『今日もカレーですか?』は、この原作の感触を損なうことなく、実在するカレーの名店を舞台に据えている。
第1話ではインドカレーに初挑戦し、第2話ではカレーハウスCoCo壱番屋を訪れ、第3話では人間関係の衝突が正面から描かれる。
重要なのは、店や料理が“物語を盛り上げる装置”として消費されていないことだ。カレーはあくまで会話のきっかけであり、感情の逃げ場であり、ときに火種にもなる。
キービジュアルで描かれたサリー姿も、異文化を強調するための演出ではない。「知らないものに触れること」そのものが、ちなの日常に組み込まれていく過程を象徴している。
主題歌「spice」が補強する作品の思想
主題歌を担当するのは、ポップしなないで。書き下ろし楽曲「spice」は、トレーラー映像の時点で、作品全体のトーンを的確に伝えている。
彼らがコメントで語っているように、この楽曲は「カレーそのもの」ではなく、カレーを前にした時間や感情に焦点を当てている。
強く背中を押すわけでもなく、感動を強要するわけでもない。それでも、食事のあとにふと残る余韻のようなものを、音楽として掬い取っている点で、ドラマと非常に相性がいい。
「上京×グルメ」では終わらない物語構造
『今日もカレーですか?』は、上京した若者が新しい人間関係を築く物語でもある。
しかし、成長譚として分かりやすく回収されることはない。
失敗もあるし、誤解も残る。それでも「また一緒に食べる」という選択だけが、次のページへ進ませる。
この構造は、結果や効率が求められがちな現代において、むしろ新鮮だ。すぐに答えを出さないこと。
分かり合えない可能性を含んだまま関係を続けること。そのすべてが、カレーという日常的な存在を通して描かれている。
『今日もカレーですか?』が“今”ドラマ化される意味
ここからは、原作とドラマの流れを踏まえた上での視点になる。
近年のグルメドラマは、「癒やし」や「成功体験」に着地するものが多い。一方で『今日もカレーですか?』は、癒やしきらない。成功もしない。
食べ終わっても、問題は残る。関係性も、完全には整理されない。それでも「次はどこで食べようか」という問いだけが、前向きに残る。
この余白こそが、本作が心に残る最大の理由だ。
カレーは万能ではない。だが、今日をやり過ごすには十分な温度がある。その現実的で誠実な視点が、原作からドラマへと受け継がれ、今の時代に自然とフィットしている。
『今日もカレーですか?』は、カレー好きのためのドラマではない。「誰かと食べること」に少し疲れた人のための物語なのだ。
一皿のカレーが、人生を変えることはない。それでも、また同じ問いを交わせる関係が続いていく。その静かな希望こそが、この作品を忘れがたいものにしている。

今日もカレーですか?
黒部ちな、18歳。この春、上京して来ました。不安はいっぱいだけれど、ここから私の・・・カレーなるキャンパスライフが始まる!?女子大生×カレー×青春!!実在の名店たちが多数登場する超本格カレーストーリーここに開幕!!














