
静けさの奥に宿る変化
華やかなアイドルグループ「なにわ男子」の中で、最年少ながら印象的な落ち着きを見せる長尾謙杜。
デビュー当初は“無邪気な末っ子”として多くのファンに愛されてきたが、ここ数年で彼の表現は明確に進化している。
2026年2月27日公開予定の映画『木挽町のあだ討ち』では、物語の核を担う若侍・伊納菊之助を演じる。端正な容姿に鋭さと儚さを同居させるその姿は、“俳優・長尾謙杜”の新たな地平を告げるものとなりそうだ。
俳優としての歩み:少年から物語を紡ぐ人へ
長尾謙杜は2002年8月15日、大阪府生まれ。2014年に旧ジャニーズ事務所へ入所し、関西ジャニーズJr.として活動を開始した。
グループ活動を経て、2018年に「なにわ男子」のメンバーに。2021年11月にCDデビューを果たすと、グループは瞬く間に全国区の人気を獲得した。現在はSTARTO ENTERTAINMENTに所属している。

一方で、彼は早くから俳優としての資質を開花させている。2023年のNHK大河ドラマ『どうする家康』では、久松源三郎勝俊役として出演。繊細な表情と抑えた感情表現が評価され、俳優としての注目度を高めた。
そして、2025年1月17日公開の映画『室町無頼』では、棒術を駆使して戦う青年・才蔵を演じた。作品の舞台となる室町末期の混沌を背景に、理想と現実の狭間でもがく若者の姿を、力強くも静かな熱で演じ切った。この役への挑戦を通じて、彼の中に「役として生きる覚悟」が芽生えたと言えるだろう。
『木挽町のあだ討ち』で挑む、美と影の共存
直木賞・山本周五郎賞をW受賞した永井紗耶子の同名小説を、源孝志監督が実写映画化する『木挽町のあだ討ち』。主人公・加瀬総一郎を柄本佑、芝居小屋の立作者・篠田金治を渡辺謙が演じる。
長尾が演じるのは、父の仇を見事に討ち果たした若侍・伊納菊之助。物語の発端を飾る存在であり、仇討ちの真相をめぐる“謎”の中心人物でもある。周囲から賞賛される一方、その内側に複雑な秘密を抱えているという難役だ。
プロデューサーの須藤泰司氏は、配役の理由についてこう語っている。
「長尾さんは『室町無頼』で見せたワイルドな魅力に加え、繊細で中性的な美しさを併せ持っています。菊之助という役には“若さと影の両方”が必要で、それを表現できるのは彼しかいないと感じました。」
この役で長尾は、外見の美しさではなく、内面の揺らぎや静かな決意をどう表現するかに挑む。言葉よりも所作や視線の中に感情を宿す――その演技は、彼の持つ“静の力”を際立たせることになるだろう。
“なにわ男子”と“俳優”を両立させる静かな情熱
音楽活動を中心とするなにわ男子のメンバーとして、長尾はツアーやテレビ出演など多忙な日々を送っている。だが、芝居の現場では一転して寡黙に役へと向き合う姿が印象的だ。
共演者からは「集中力が高く、スイッチが入る瞬間が明確」と評されることも多く、彼が現場で見せる真剣な表情は、アイドル活動とは異なるベクトルの輝きを放っている。
インタビューでは「役を通して、自分の中の新しい一面を見せたい」と語っており、芝居への取り組み方に確かな軸があることがうかがえる。
彼にとって“なにわ男子の長尾”と“俳優の長尾”は別の顔ではなく、互いを高め合う存在なのだろう。ライブで磨いた表現力と、映画で培う繊細な感情表現。その両輪が、彼の表現者としての幅を広げている。
俳優としてのこれから

『室町無頼』でのエネルギッシュな演技、そして『木挽町のあだ討ち』での静謐な存在感。2作品を通じて、長尾謙杜は確実に“幅”を広げてきた。
アクション、時代劇、心理ドラマとジャンルを横断しながら、彼の演技には一貫して「人の内面を丁寧に描く」誠実さがある。
今後は現代劇や恋愛ドラマ、ヒューマンストーリーなどでどのような表現を見せるのかに注目が集まる。アジアでも人気の高い「なにわ男子」のメンバーとして、海外での映画出演など、新たな挑戦の可能性も広がっている。
なぜ今、“時代劇”が長尾謙杜にフィットするのか
時代劇は、現代劇以上に「間」や「呼吸」で感情を伝えるジャンルだ。静寂の中に情があり、沈黙に意志が宿る。
長尾の芝居は、この“余白の美”に親和性が高い。派手な台詞回しよりも、わずかな視線や息遣いで人物の心を描く。その表現スタイルが、時代劇の文法と自然に噛み合う。
また、彼の持つ清廉な佇まいは、和装や古典的な世界観の中で一層際立つ。江戸の街並みの中に立っても違和感がなく、画面の中で時代の空気に溶け込む。
『木挽町のあだ討ち』でその美と影を体現できれば、長尾謙杜は“時代劇に似合う俳優”として、次の時代を担う存在となるかもしれない。
長尾謙杜という“物語”は続いていく
アイドルとしての華やかさと、俳優としての芯の強さ。長尾謙杜は、その両方を自分の中で育てながら歩み続けている。
『室町無頼』で見せた躍動、『木挽町のあだ討ち』で見せる静謐。――その二つの表現のあいだに、彼自身の“新章”が息づいている。
グループ活動の中で光る笑顔も、映画で見せる沈黙の芝居も、どちらも彼の真実だ。
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