
永瀬廉が2026年1月期の日曜劇場『リブート』で演じるのは、これまでのキャリアの延長線上にありながら、その先へ踏み出すような難役だ。
彼が挑む 冬橋航 は、子どもを支援するNPO法人「しぇるたー」の職員として働く一方で、闇組織の実働部隊として指示を遂行する裏の顔を持つ青年。
正義と罪の狭間で揺れ続ける人物像は、永瀬にとって新たな挑戦であり、俳優としての現在地を象徴する役どころだ。
本記事では、永瀬廉の視点を軸に『リブート』で描かれる世界、冬橋航の内面、そして永瀬が迎えつつある俳優としての転機を丁寧に辿っていく。
再び日曜劇場へ——「冬橋航」という難役との出会い

永瀬がTBSの連続ドラマに出演するのは、2023年4月期の『ラストマン-全盲の捜査官-』以来。
今回の『リブート』で与えられた冬橋航は、物語の展開に深く関わる重要人物だ。
冬橋は、北村有起哉演じる合六亘に直属する裏組織の実行役として暗躍する存在でもある。
表の仕事では子どもと向き合い、裏の世界では任務を遂行し、さらには鈴木亮平演じる刑事・儀堂歩の動向を監視する——その二面性は、日曜劇場の中でも異色だ。
永瀬自身も「これまでで最もバイオレンスな役」と語り、その内側に潜む目的や痛みをどう表現するかに心を砕いたという。
役と向き合うこの姿勢こそ、永瀬廉が俳優として進化してきた証とも言える。
『リブート』が描くのは、善悪ではなく“価値観の衝突”
『リブート』は、鈴木亮平が演じる早瀬陸の人生が一変するところから動き出す。
失踪した妻が亡くなったと知らされ、身に覚えのない罪で追い詰められ、自ら真相を追うために“顔を変え”、儀堂歩の人生を背負うことになる——極限まで張り詰めたサスペンスだ。
そこに冬橋航が絡むことで物語はさらに複雑な層を持つ。
冬橋は敵なのか、味方なのか。
彼の行動は組織の命令か、個人の信念か。
永瀬が語るように「冬橋には悲しみや目的がある」。その内側を知ることで、視聴者の“正義”の捉え方が揺さぶられる作品でもある。
この揺らぎにこそ、『リブート』の緊張感と魅力が詰まっている。
永瀬廉が体現する“静かな強さ”と役への没入
永瀬が台本を読み進めたとき、まず圧倒されたのは物語の濃密さだったという。
複雑に絡み合う出来事とキャラクター、点と点が繋がっていく構造は、一つ読み飛ばすと見落としてしまうほど緻密だ。
冬橋航は、台詞よりも“間”が雄弁な人物だ。
任務を遂行するときの静かな決意、感情を押し殺す瞬間、葛藤を誰にも見せない姿。
永瀬は「冬橋が立っているだけで放つ空気」を大切に、視線や立ち姿での表現を積み重ねている。
鈴木亮平とのシーンでは、役として受け止める圧を意識しつつ、気持ちで真正面からぶつかることで冬橋という人物の“揺れない核”を形にしようとしている。
こうした“静かな強さ”の積み重ねが、ドラマの中で冬橋を特別な存在へと押し上げている。
冬橋と早瀬——ふたりの距離が変わる瞬間
物語の中で冬橋は、一方的に早瀬を監視する立場から始まる。
しかし、早瀬が何を失い、何を守ろうとしているのかを知るほど、冬橋自身の価値観が静かに揺れ出す。
永瀬は「回を重ねるほどに冬橋のスタンスが変わっていく」と話す。
早瀬の選択・儀堂の信念・合六の目的——それらが冬橋をどう揺らすのか。
この関係性の変化は、サスペンスの中に人間ドラマを浮かび上がらせる核となっていく。
視聴者にとっても、冬橋と早瀬の“言葉にしづらい距離”は大きな見どころとなるはずだ。
対照的なバディ、霧矢直斗が照らす“冬橋の影”
冬橋の行動を語る上で欠かせないのが、藤澤涼架(Mrs. GREEN APPLE)が演じる 霧矢直斗 の存在だ。
霧矢は明るく軽妙で、場をやわらげる空気を持ちながら裏の仕事にも身を置いている。
この対照的なキャラクターが冬橋の本心を映し出す“鏡”のような役割を果たしている。
プロデューサーは、この2人を「互いが欠けると成立しないバディ」と表現した。
霧矢が持つ軽やかな存在感と、冬橋が抱える重さ。そのコントラストが物語に立体感を与えている。
藤澤自身も霧矢の難しさを語りつつ、彼なりの愛情の形に寄り添いながら役に向き合っている。
冬橋と霧矢の関係がどう変化し、どの場面で支え合うのかも注目ポイントだ。
永瀬廉の“現在地”を示す冬橋航という役
2020年代以降の永瀬廉の出演作を見ると、彼はキャラクターの内面に深く入り込む役柄を担うことが増えている。
“明るい”“爽やか”というイメージにとどまらず、影や迷いを抱える人物へと踏み込む姿勢が印象的だ。
冬橋航は、その延長線にありながらも一段深い挑戦だ。
暴力に手を染める一方で、心の奥底には揺らぎがあり、迷いがある。
一見相反する要素を一つの人物として成立させるには高い表現力が求められるが、永瀬はそこにじっくりと向き合い、丁寧に積み上げている。
強さと弱さ、使命感と諦観。その境界に立つ冬橋をどう生きるか。
その答えは、永瀬廉がこの作品で示す“現在地”そのものだ。
永瀬廉が“難役”を引き受け続ける理由
永瀬廉の近年の役選びを見ると、ただ物語の華やかさを補うポジションにとどまらず、物語の核へ深く関わる存在として描かれることが増えている。これは単にキャリアが進んだからという単純な理由ではなく、永瀬の演技が「キャラクターの内面をどう丁寧に掘り下げるか」という方向に重心を置くようになってきたからだ。
冬橋航は、その象徴的な役といえる。
彼は組織の命令に従いながらも、心の奥底では割り切れない思いを抱えている。
この“二重構造”を自然に見せるには、台詞以上に空気や間、わずかな感情の揺れを表現する力が不可欠だ。永瀬はその部分を、視線の動き、体の重心、声の抑揚といった細部まで意識して積み上げている。
鈴木亮平や北村有起哉といった、存在感の強い俳優たちと向き合う中で役が磨かれていくプロセスも非常に興味深い。
鈴木との対峙では、作品全体の空気を背負うような緊張感が生まれ、それが冬橋という人物の“壊れなさ”と“揺らぎ”を同時に際立たせている。
冬橋航は、観客に「彼はいったいどこへ向かうのか」という問いを残す人物だ。
その曖昧さや未完成さこそが、永瀬廉という俳優の現在の魅力とつながっている。
そしてこの役を経験した先に、彼がどのような新しい表現へ向かうのか。その未来は、今回の挑戦を通してより鮮明になっていくだろう。
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