なぜ狙われた?暗殺未遂事件の真相
一見おっとりしていて、後宮の陰謀とは無縁に見える里樹妃。しかし彼女は物語序盤から、複数回にわたって命を狙われるという過酷な運命にさらされていきます。その裏には、後宮という閉ざされた空間に渦巻く“権力”と“秘密”が深く関係していたのです。
● 風明による毒殺計画の真意とは?
最初の暗殺未遂事件の黒幕は、阿多妃付きの侍女頭・風明(フォンミン)。彼女は過去に乳児へ蜂蜜を与え、ボツリヌス中毒によって死なせてしまったという、重大な過ちを抱えていました。この過去を知る人物が表舞台に立つことを恐れた風明は、なんとその“口封じ”として、里樹妃を暗殺しようとしたのです。
なぜなら、里樹妃もまた幼い頃にボツリヌス中毒を経験しており、その知識や経験が過去の事件を紐解く鍵になると考えられていたからです。偶然ではなく、“知っているからこそ殺される”という、残酷すぎる理屈が彼女を標的にしたのです。
このエピソードでは、無知や事故が国家的陰謀へと繋がり得る後宮の怖さと、誰が敵か味方かわからない緊張感が浮き彫りになります。
● 幽閉と転落、さらなる命の危機
さらに物語が進む第6巻では、里樹妃は何者かの陰謀によって塔に幽閉されるという事件が発生。外界との接触を絶たれ、絶望の中で彼女は自ら塔から飛び降りるという選択をしてしまいます。幸いにも命を落とすことはありませんでしたが、この事件によって「死亡説」が流れたほど、危険な状況にあったのです。
幽閉の理由については詳細が語られていませんが、政略結婚の道具として扱われてきた彼女が、どこかの派閥の“駒”として再び利用されようとしていた可能性は否定できません。無垢な少女が知らぬ間に後宮の権力争いの渦中に放り込まれる——これが『薬屋のひとりごと』らしい皮肉なリアリティなのです。
孤独な妃・里樹妃が背負わされた運命とは
後宮といえば、華やかな衣装に囲まれた美しい妃たちが優雅に暮らしている——そんなイメージを抱きがちです。しかし、里樹妃の人生はむしろその真逆。権力と欲望が渦巻く宮廷で、彼女は「政略の犠牲」として扱われ続けてきた存在でした。
● 先帝に嫁がされた“9歳の少女”
里樹妃は、かつての有力貴族「卯一族」の血を引く少女。しかし、時代の流れとともにその一族の権威が衰えつつあったため、実父は巻き返しを狙って9歳の彼女を、当時の皇帝である先帝に嫁がせました。
その先帝は、少女趣味という問題を抱えた人物。幸いにも、手が付けられる前に先帝は崩御し、里樹妃は“未亡人”という立場に。まだ幼い少女が「後宮を去る未亡人」という肩書を背負うことになったのです。
政治のためだけに用いられた幼き命。この時点で、彼女の人生はすでに大きく歪められていたと言えるでしょう。
● 老人の妾にされかけた過去
先帝の死後、出家して平穏を得るはずだった里樹妃。しかし、実父は再び彼女を政治の道具にしようと動きます。今度は、祖父ほど年の離れた高齢貴族の妾として差し出そうとしたのです。
この政略結婚を阻止したのが、現皇帝とその妃・阿多(アーデゥオ)でした。阿多妃は里樹妃の実母の親友であり、かつての縁から彼女を「上級妃」として迎え入れたのです。それは、政略から少女を守るための“盾”でもありました。
この救いの手がなければ、里樹妃は今頃、どこかの邸宅で静かにその存在を消されていたかもしれません。
● 阿多妃との“疑似親子”の絆
里樹妃の実母は早くに亡くなり、阿多妃自身もまた子を持てない体。そんな2人は、立場こそ「姑と嫁」ですが、実情はまるで親子のような関係を築いていきます。
阿多妃が後宮を去る際、必死で追いすがる里樹妃の姿は、まさに“母を失う子”そのものでした。このシーンは多くの読者の涙を誘い、彼女の孤独と、心から慕える相手を持った喜びと悲しみを象徴する場面となっています。
馬閃との恋、そのゆくえは?
絶え間ない不運と孤独に見舞われてきた里樹妃。しかし、そんな彼女にとって唯一の「救い」とも言える存在がいます。それが、高順(ガオシュン)の息子である馬閃(バセン)です。
真っ直ぐすぎるがゆえに不器用な彼と、心を閉ざしていた少女との交流は、まるで一筋の光が差し込むような美しさがあります。
● はじめはただの“護衛”…それでも救ってくれた
馬閃と里樹妃の関係が大きく動き出したのは、彼が護衛として彼女のそばに立つようになってから。最初は感情をあまり表に出さない彼の態度に戸惑っていた里樹妃ですが、盗賊に襲われた際、彼が命を懸けて守ってくれたことで、彼女の中で少しずつ彼の存在が大きくなっていきます。
また、ライオンに襲われたという異常事態でも、馬閃は一切の迷いなく里樹妃の前に立ちはだかり、彼女を守り抜きました。その姿に、里樹妃は恋という感情を初めて意識し始めるのです。
● 馬閃の純粋さが、彼女の心を溶かしていく
これまで政略と陰謀に翻弄されてきた里樹妃にとって、馬閃のような「見返りを求めない優しさ」はあまりにも異質でした。彼の言動や態度には、出世欲も、打算も一切ない。ただ、「守りたい人を守る」という強い意志だけがあるのです。
そんな馬閃のまっすぐさに、徐々に心を開いていく里樹妃。口数は少ないながらも、馬閃の存在は彼女にとって心のよりどころになっていきました。
● 現帝の“公認カップル”?進展は超スローペース!
2人の関係は、周囲からも「これはもう…」と察せられるほど自然なものに。そしてなんと、現皇帝や阿多妃たちも、この関係がうまくいくようにさりげなく後押しを始めています。
とはいえ、恋愛経験ゼロ同士のため、進展は亀の歩みのようにスローペース。読者としては「はやくくっついて!」とヤキモキせざるを得ない展開ですが、そこがまた、この作品らしいじれったさでもあります。
2人の恋の行方は、まだはっきりとは描かれていません。しかし、後宮の権力争いを知らずに育った里樹妃と、それを守るために剣を振るう馬閃の関係は、確実に信頼と絆を深めつつあります。
なぜここまで不憫なのか?いじめと孤独の描写
「上級妃」という高い地位にありながら、なぜこれほどまでに“かわいそう”と同情されるのか?
それは里樹妃が、宮廷内の陰湿ないじめの標的にされていたからにほかなりません。そして、それにすら気づけないほどの無垢さが、さらに読者の胸を締めつけるのです。
● 日常化していた侍女たちからの嫌がらせ
彼女が後宮で受けていたのは、単なる無視や陰口ではありません。身につける衣装をわざと場違いなものにすり替えられたり、食事を入れ替えられたりと、明確な悪意に基づいた“仕掛け”が繰り返されていました。
園遊会でのエピソードでは、毒味役の河南(カナン)が嫌がらせの一環として食事をすり替えた結果、皮肉にも毒入りスープを避ける形になってしまうという出来事も発生。この偶然がなければ、命を落としていた可能性すらあったのです。
● いじめにすら“気づけない”危うさ
驚くべきは、里樹妃が自分がいじめられているという現実に、ほとんど気づいていなかったということ。世間知らずで素直すぎる性格が災いし、悪意を悪意として受け取る力が育っていなかったのです。
彼女のこの“危うい無知”は、猫猫(マオマオ)が間に入らなければ命取りになっていた場面も多く、読者の「守ってあげたい」という感情を強く掻き立てます。
● 河南との関係の変化に救いの光も
そんな中でも、わずかながら希望を感じさせてくれるのが、河南との関係の変化です。猫猫からの厳しい叱責を受けた河南は自分の行いを省み、やがて侍女頭に昇格。以後は里樹妃を守る立場として、信頼できる味方となっていきます。
この変化は、里樹妃の境遇そのものが少しずつ改善されていく兆しでもあります。小さな絆が、少しずつ彼女の世界を明るくしていく——そんな描写が、心にじんわりと染みてくるのです。
不幸体質の少女がたどる未来は?
政略結婚、いじめ、暗殺未遂……。信じられないような数々の不運に見舞われてきた里樹妃。まさに「不幸体質」と呼ばれてしまう彼女ですが、そんな少女だからこそ、その先に待つ未来には「幸せであってほしい」と誰もが願わずにいられません。
● 幸薄き少女に訪れた“変化の兆し”
物語序盤では、ただ流されるように後宮を生きていた里樹妃。しかし、猫猫や馬閃、河南といった周囲の人物との関係を通して、少しずつ「自分の意志で動く」姿が描かれるようになっていきます。
服装や表情、振る舞いにも変化が現れはじめ、内面からも成長が感じられるように。彼女の未来がまだ定まっていないからこそ、読者の想像力と期待が膨らむのです。
● 恋の行方と後宮の行方
馬閃との関係が進展すれば、彼女の人生はまったく違う形で開けるかもしれません。後宮という閉ざされた世界から解放され、真の意味で「一人の少女」として生きられる可能性もあります。
ただし、後宮とは常に政治の舞台。簡単にはいかない現実もあるはずです。だからこそ、彼女が自分の意思で「誰かに守られるだけの存在」から脱却する日を見届けたい——そんな読者の声が、彼女の物語を支えているのかもしれません。
● 読者への問いかけ
ここまで数々の試練に耐えてきた里樹妃。
あなたは、彼女がどんな未来を歩むべきだと思いますか?
恋を選ぶのか、自由を選ぶのか、それとも…?
原作はまだ続いており、アニメでもこれから彼女の重要なエピソードが描かれていきます。
彼女の物語を見届ける準備は、できていますか?