
舞台に立つ坂本昌行の姿には、近年、ある種の「静けさ」が漂っている。
声高に何かを主張するわけではない。それでも、その場に立つだけで空気が変わる。今回解禁された主演舞台『るつぼ The Crucible』のメインビジュアルは、そんな現在の坂本昌行を象徴する一枚と言えるだろう。
森を背景に、17世紀セイラムの町に生きる登場人物たちが、こちらに視線を向ける構図。ビジュアル全体に張りつめた緊張感の中で、坂本昌行の存在感が際立っている。派手さよりも、沈黙が語る世界観。その空気感こそが、この作品と坂本の現在地を結びつけている。
ストレートプレイ「るつぼ」に立つという現在地

『るつぼ The Crucible』は、アーサー・ミラーが1953年に発表した戯曲で、同年にトニー賞演劇作品賞を受賞した代表作の一つだ。
17世紀アメリカ・セイラムで実際に起きた魔女裁判を題材に、疑念と恐怖が共同体を崩壊させていく過程を描いている。
坂本昌行が演じるのは、物語の中心人物である農夫ジョン・プロクター。正義と良心の間で揺れ動きながら、厳しい選択を迫られる役どころだ。
歌やダンスといった要素が前面に出るミュージカルとは異なり、本作は台詞と沈黙、そして俳優の立ち姿そのものが問われるストレートプレイ。坂本がこの戯曲で主演を務めることは、キャリアの延長線上にある自然な流れとして受け止めることができる。
上村聡史演出が立ち上げる緊張の空間
演出を手がけるのは上村聡史。
作品ごとにアプローチは異なるものの、戯曲の構造と俳優の身体性を丁寧に結びつける演出で知られている。
『るつぼ』のように説明を削ぎ落とした戯曲では、俳優が「どう存在するか」が舞台の質を左右する。台詞の強弱や感情表現だけでなく、沈黙に耐える力、視線の置き方、呼吸の間。そうした要素が積み重なり、観客に判断を委ねる空間が生まれる。
坂本昌行は、長年の舞台経験を通して、その「場に立つ感覚」を培ってきた俳優だ。上村演出のもとで、彼がどのようにジョン・プロクターとして存在するのか。その点は、本作の大きな見どころとなる。
役柄と重なり合う、人間の揺らぎ
『るつぼ』に登場する人物たちは、誰もが確信を持って行動しているようでいて、実際には不安や恐怖に揺さぶられている。
ジョン・プロクターもまた、完全な英雄ではない。迷い、後悔し、それでも選択を迫られる一人の人間だ。
坂本昌行の演技は、感情を誇張するよりも、役の内側にある揺らぎを丁寧に積み重ねる点に特徴がある。
その表現が、『るつぼ』という戯曲が持つ「人間の弱さ」を描く視点と重なったとき、舞台はより現代的な響きを帯びるだろう。
群像劇としての厚みを支えるキャスト陣
本作には、前田亜季(エリザベス・プロクター役)、瀧七海(アビゲイル・ウィリアムズ役)、松崎祐介、伊達暁、佐川和正、夏子、大滝寛、那須佐代子、大鷹明良ら、舞台経験豊富な俳優陣が名を連ねている。
『るつぼ』は、誰か一人が突出する物語ではない。
疑う者、疑われる者、その全員が物語を構成する要素となる。坂本昌行は、その中心で物語を引っ張るというよりも、全体を支える軸として舞台に立つことになる。
公演情報
公演は2026年3月14日から29日まで東京・東京芸術劇場プレイハウス、
4月3日から5日まで兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール、
4月11日・12日に愛知・穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホールにて上演される。
チケットの一般前売りは12月20日10時に開始予定。
坂本昌行が「いま」ストレートプレイに立つ意味
近年の坂本昌行の舞台出演を並べてみると、ジャンルに偏りがないことに気づく。
ミュージカル、会話劇、少人数作品——いずれも異なる性質を持つ舞台だ。
その流れの中で『るつぼ』に主演することは、技巧を見せる場というより、俳優としての「立ち方」を観客に委ねる選択と捉えられる。
派手な表現を抑え、役と戯曲に身を置く。その姿勢が、作品の重さと釣り合っている。
ストレートプレイは、観る側にも判断を求める。誰が正しいのか。沈黙は逃げなのか。正義はどこで歪むのか。
坂本昌行は、その問いを声高に提示するのではなく、舞台上で静かに差し出す俳優だ。
『るつぼ The Crucible』は、新たな転機というよりも、現在進行形の坂本昌行を確認するための舞台として、多くの観客の記憶に残ることになりそうだ。
坂本昌行が挑む「るつぼ」——静かな佇まいの奥にある、現在進行形の俳優像
舞台に立つ坂本昌行の姿には、近年、ある種の「静けさ」が漂っている。 声高に何かを主張するわけではない。それでも、その場に立つだけで空気が変わる。今回解禁された主演舞台『るつぼ The Crucible』のメインビジュアルは、そんな現在の坂本昌行を象徴する一枚と言えるだろう。 森を背景に、17世紀セイラムの町に生きる登場人物たちが、こちらに視線を向ける構図。ビジュアル全体に張りつめた緊張感の中で、坂本昌行の存在感が際立っている。派手さよりも、沈黙が語る世界観。その空気感こそが、この作品と坂本の現在地を結びつ ...
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