
「ラブコメです!」と言われて読み始めたのに、気づくと胸の奥がソワソワしている。なのにページは止まらない。
『咲きそめコンプレックス』の“ざわつき”は、ホラーのびっくり演出じゃなくて、もっと生活に近いところからやってきます。
舞台は高校生・理子と、親友・友花、そして友花の年の離れた妹・愛花。テスト勉強のために友花の家へ行った理子が愛花と出会った瞬間、理子の中にある「人に言えない感情」が、芽を出しかけてしまう。
でも愛花は初対面から理子に冷たい。ここで普通なら「よし、恋は始まらない!」となるはずが……友花が善意100%で二人を仲良くさせようとするから、状況がじわじわ動き出す。
この“じわじわ”こそが、読者の心をざわつかせる最大の燃料です。

ざわつきの正体①:禁忌が「事件」じゃなく「日常」に混ざっている
本作の巧さは、禁忌を派手な修羅場でドーン!と爆発させないところ。
テスト勉強、友だちの家、姉妹、仲を取り持つ親友。素材は全部「よくある日常」なのに、その中心に「好きになってはいけない」が置かれている。
だから読者は油断して笑うんです。
そして次の瞬間、「あれ、今わたし、笑ってよかった?」と自分の感情の置き場所がわからなくなる。
この“安心と不安の同居”が、ざわつきの第一波。
ざわつきの正体②:主人公がすでに自分を裁いている
理子は、ただの鈍感主人公じゃありません。むしろ逆。
「これは出してはいけない」「隠さなきゃいけない」と、自分の感情を自分で監視しているタイプです。
外から怒られる前に、内側でブレーキが踏まれている。
だから読者は単純に「恋を応援!」に乗れないし、かといって物語から降りるほど単純に切り捨てられもしない。
笑いながら苦しくなる、という矛盾が発生します。これが第二波。
ざわつきの正体③:相手が“都合のいい存在”として描かれていない
愛花がただ「可愛い、守りたい、天使!」で終わるなら、読み味はもっと単純になりがちです。
でも本作は、愛花が理子に敵意を向ける(ように見える)スタート。ここが大事。
- 理子:隠したい、でも心が揺れる
- 愛花:警戒している、冷たい
- 友花:みんな仲良くしたい(善意で)
この三角形、全員が“それぞれ正しい”顔をしてるのに、かみ合わせがズレていく。
読者の心が落ち着く暇がないのは、ここで関係が「一方向」に進まないからです。第三波、到来。
ざわつきの正体④:一番こわいのは、友花の「いい子ムーブ」
ラブコメの名脇役って、だいたい“背中を押す友だち”ですよね。
ところが本作では、その背中押しが、当事者にとっては逃げ道を塞ぐ押しになり得る。
友花は悪くない。むしろ優しい。
だからこそ読者は「やめて!」と言いにくい。言いにくいけど、状況は進む。進んじゃう。
この“善意が加速装置になる恐さ”が、第四波です。
ざわつきの正体⑤:タイトルがもう「恋」じゃなくて「コンプレックス」
『咲きそめコンプレックス』って、名前がうまいんですよ。
「咲きそめ」は、感情が芽生える綺麗な響き。でも隣にあるのは「恋」じゃなくてコンプレックス。
つまりこの作品は最初から、
“咲くのは美しいけど、咲き方が痛い”
という方向へ読者を連れていく。祝福で包むより、揺れと葛藤を丁寧に転がしていく。
だからざわつく。でも読んでしまう。はい、完全に術中です。
読む前に知っておくと、より楽しめるポイント
本作は“刺激”を売るタイプではなく、感情の揺れの描写で勝負する作品です。
なのでおすすめの読み方はこれ。
- 「誰が悪いか」を決めない
- 「誰が苦しいか」を追う
- セリフより“間”に注目する(空気がうまい)
この3つで読むと、ざわつきが「不快」じゃなく「作品の強み」に変わります。
追記
『咲きそめコンプレックス』のざわつきって、結局のところ「読者の中にある判断基準」を勝手に揺らしてくるからだと思うんです。ラブコメって、普通は“応援の置き場所”が用意されています。「この二人、くっつけ!」とか「このすれ違い、尊い!」とか。ところがこの作品は、応援席を最初から片づけてしまう。椅子がない。立ち見。しかも会場はテスト勉強の机の横。日常すぎて逃げられない。
さらにややこしいのが、理子が「自分で自分を取り締まっている」点です。誰かにバレて怒られる恐怖より、先に“自分に対する後ろめたさ”が来ている。だから読者は「外から罰を与える話」として眺めづらいし、単純に“恋の始まり”として消費もしづらい。ここで読者は、感情を二つ同時に抱えることになる。笑いながら、胸がキュッとなる。軽い会話なのに、重い沈黙が挟まる。
そして友花の存在が決定打になります。友花は善意で二人を近づける。これはラブコメ的には最高の燃料なのに、当事者の事情を知らない善意って、ときどき「扉を閉める力」になるんですよね。逃げたい側にとっては、明るく「仲良くしよう!」と言われるほど逃げられない。読者はそこで「友花、いい子だな」と思いながら「今はそれが一番きつい」とも感じる。この二重感情が、ざわつきを“持続する熱”に変える。
だからこの作品の面白さは、禁忌を煽って消費することじゃなく、禁忌と日常が隣り合った瞬間に生まれる“心のノイズ”を、ちゃんとラブコメの速度で追いかけているところにあります。ざわつくのに読める。読めるのに落ち着かない。その矛盾を矛盾のまま成立させてしまうのが、『咲きそめコンプレックス』の強さだと思います。

咲きそめコンプレックス
可愛さに心がたじろぐ、年の差ガールズラブコメディ!
高校生の理子は、年下に惹かれてしまう自分の気持ちをずっと胸の奥に閉ざしてきた。
そんな彼女が、親友である友花の家で出会ったのは年の離れた妹だった。
その瞬間、胸の奥で衝撃が走り、一目で彼女に心を奪われてしまう。
戸惑いと理性のあいだで揺れながら、理子は彼女との関係に葛藤し続ける。
好きになってはいけない――


