
髙橋海人が魅せる“もう一人の人生”―15年間の秘密と成長の物語
俳優として着実に存在感を高める髙橋海人が、今回挑んだのは「自分ではない人生を15年間生き続けた男」という、非常に難しい役どころだ。
繊細な感情の変化を表情や所作に刻み込み、観客を“もう一人の自分”の物語へと引き込む。
15年を背負う役作り
髙橋が演じるのは、水村まなみという女性――ただし、外見は男性である坂平陸(芳根京子)という複雑な設定だ。高校1年の夏、ふとした事故で心と体が入れ替わってしまい、そのまま戻れぬまま大人になった。
30歳になってもなお、まなみとして生きる陸(芳根)と、陸として生きるまなみ(髙橋)の物語は続く。
髙橋は、青春の戸惑いから、大人としての覚悟、そして秘めた後悔まで、15年間の時間を一人の人物の内面に重ねるため、声色や歩き方、視線の動かし方まで細かく変化させている。
繊細な感情の“にじませ方”
予告編では、「元に戻る気ないだろ」という鋭い言葉を投げかける場面や、「戻りたくないわけないでしょ!」と涙をこらえながら訴える場面が映し出される。その中で、髙橋の目には、15年という長さの中で溜め込んだ感情がわずかににじむ。
この“にじませ方”が、髙橋海人の魅力の一つだ。大きな感情表現だけでなく、ふとした瞬間の表情の陰影が、観客に「この人は本当に別の人生を生きてきたのでは」と錯覚させる。
共演者との化学反応
今回が初共演となる芳根京子との掛け合いは、役の設定を超えた“長年の付き合い”のようなリアリティが漂う。
二人が一年に一度、喫茶店「異邦人」で近況を報告し合うシーンは、セリフ以上に沈黙や視線で感情が交差する印象的な場面だ。
また、高校時代を演じる西川愛莉と武市尚士が織りなす、無邪気でまだ未来を知らない頃の姿が、現在の二人の重みをより際立たせている。
俳優・髙橋海人の進化と今回の役の意味

髙橋海人といえば、King & Princeのメンバーとしてデビュー以来、音楽活動やバラエティでも幅広く活躍してきた存在だ。しかし、俳優としての歩みは決して急ぎ足ではなく、一つひとつの役を丁寧に積み重ねてきたのが特徴だ。
初期の出演作では、瑞々しい青年役や純粋なキャラクターを演じることが多かったが、近年は感情の奥行きや人間的な複雑さを描く役に挑戦し、その表現力に磨きをかけている。
“素”を見せない役作り
髙橋の演技における魅力のひとつは、役に合わせて“自分の素”を完全に隠し、キャラクターの人格を前面に出すことだ。
今回の「水村まなみ(外見は男性)」という難役では、ただ女性らしい仕草を真似るのではなく、「心の奥に別の記憶を抱えて生きる人間」としてのリアリティを構築。表情の端や声のトーンのわずかな揺らぎが、観客に違和感と説得力を同時に与える。
過去作との比較で見える成長

過去に出演したヒューマンドラマでは、優しさや誠実さを前面に出す役が多かったが、今作では“秘密を抱えて生きる”という新しい側面を見せている。
特に、相手のセリフを受け止める“間”の取り方や、沈黙の中で感情を伝える表情演技は、デビュー当時には見られなかった深みだ。
これは舞台経験や連続ドラマでの長期撮影を通じて磨かれた感覚が生きていると言える。
演技派俳優としてのポジション確立へ
アイドル出身俳優の中には、キャラクターのイメージを強く残したまま芝居を続けるケースも多いが、髙橋海人は役ごとに色を変える“変幻自在型”。
そのため、恋愛作品から社会派ドラマ、さらにはコメディまで幅広く対応できるポテンシャルを持つ。今回の役は、その柔軟さと深みを一度に証明する機会となるだろう。
今作が投げかけるテーマと髙橋海人の表現
「もし、自分ではない人生を背負うことになったら?」というテーマは、誰にとっても他人事ではない。
髙橋は、その問いに対する答えを明確に提示するのではなく、観客一人ひとりの心に委ねる表現を選んだ。涙や笑顔の裏に隠された感情を、あえて全て見せず、余白を残すことで物語の余韻を強めている。
この手法は、成熟した俳優ができる表現であり、彼の演技キャリアにおいても重要なターニングポイントとなる。
- 公開日:2025年11月14日(金)
- 出演:芳根京子、髙橋海人、西川愛莉、武市尚士、中沢元紀、ほか
- 原作:君嶋彼方『君の顔では泣けない』(角川文庫)
- 監督・脚本:坂下雄一郎
- 公式サイト:https://happinet-phantom.com/kiminake/
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