「この世界では、“時間”こそが命だ。」
1分1秒が“寿命”そのものとなった未来――あなたは自分の人生を、誰かに奪われる覚悟があるだろうか?
アンドリュー・ニコル監督が描くディストピア世界『TIME/タイム』(2011)は、時間を通貨として支配された社会に抗う若者たちのスリリングな逃避行を描くSFアクション。主演はジャスティン・ティンバーレイク、共演にアマンダ・セイフライド。
時間という資源を巡る“新たな階級闘争”が、あなたの価値観を根底から揺さぶる。
物語の舞台は、25歳を迎えると身体の成長が止まり、そこから先の寿命は“時間”で管理される世界。
時間は腕のデジタル表示で可視化され、仕事の報酬も、買い物も、全てが“時間”で支払われる。通貨は存在せず、時間がゼロになれば即死。
ウィル・サラス(ジャスティン・ティンバーレイク)は貧民街“デイトン”に暮らす青年。彼は母親(オリヴィア・ワイルド)と共に日々をギリギリで生き延びていた。
ある夜、ウィルはバーで100年以上の時間を持つ男、ヘンリー・ハミルトンと出会う。彼は「不死のように見えるが、退屈して死にたがっている」という謎めいた言葉を残し、自らの時間をウィルに譲渡して自殺。
突如“100年分の時間”を手に入れたウィルは、母親に時間を届けようとするが、運命は皮肉にも彼女の死を引き寄せる。
「時間さえあれば救えた命」――この悲劇が、ウィルの反抗心に火をつける。
母の死とヘンリーの言葉を胸に、ウィルは時間の格差と搾取に満ちた社会を変えるため、富裕層が住む“ニュー・グリニッジ”へ向かう。彼はカジノで時間を賭け、大勝ちすることで上流階級の世界に足を踏み入れる。
その夜、彼はタイム富豪の娘シルビア(アマンダ・セイフライド)と出会う。
だが、富の独占を守るタイムキーパー(時間警察)・レイモンド(キリアン・マーフィー)が、ヘンリーの死に関わった疑いでウィルを追跡し始める。
シルビアを人質に逃走するウィル。だがやがて、彼女もまた“時間格差”の現実を知り、ウィルと共に世界を変える決意を固める。
無数の時間バンクを襲撃し、時間を盗み、貧民へと分け与える――
二人の“現代のロビン・フッド”は、制度そのものを揺るがす反逆を始める。
だが、革命には代償が伴う。ウィルとシルビアの行動はメディアに取り上げられ、タイムキーパーたちは総力を挙げて追跡。特にレイモンドは執念深く、二人の行動を“テロ行為”と断定し、容赦のない包囲網を敷く。
クライマックスでは、巨大タイムバンクから100万年分の時間を盗み出し、貧民街へ解き放とうとする二人。しかし残された時間は“わずか数秒”。
時間がゼロになるか、革命が成功するか――
「この瞬間、あなたなら“何に”時間を使う?」
その問いが、観客の心に突き刺さる。
命がけの脱出劇の末、ウィルとシルビアは無事に時間を貧民へ届けることに成功。街には希望の光が差し、世界中の貧民街で同様の反乱が起こり始める。
タイムキーパーのレイモンドは、自らの時間を使い果たし命を落とす。皮肉にも、秩序を守ろうとした彼が最初の犠牲者となった。
物語は明確な終結を迎えない。
だが、ウィルとシルビアは止まらない。次なるタイムバンクを目指し、再び走り出す――。
「世界は変えられる」と信じて。
『TIME/タイム』が私たちに突きつけるのは、時間=命という極端なルールを通じた社会の不平等と、その変革への可能性。
この映画を観たら、あなたの“時間”の使い方が変わるかもしれない。
何気なく過ごす1分、1秒の価値に、今まで以上の重みを感じるはずだ。
映像はスタイリッシュで、時計のようにミニマルな近未来都市が美しくも冷酷に描かれる。音楽はクールに物語を引き締め、キャストたちの演技も秀逸。特にティンバーレイクの誠実さと、セイフライドの強さが光る。
そして何より、“時間”という身近で普遍的なテーマを通じて、観る者一人ひとりに問いかける。
「あなたの時間は、誰のものですか?」
『TIME/タイム』最大の特徴は、「時間」が通貨として扱われるディストピア設定です。25歳で身体の成長が止まり、それ以降は“時間”を使い切れば死ぬ。
このルールが描き出すのは、まさに命の「可視化」と「搾取」です。
この設定は以下のような現実世界へのメタファーと読み解けます:
労働者階級は時間(人生)を切り売りして生活している。
富裕層は他人の時間(命)を吸い上げて生き延びている。
寿命さえも“格差”の対象となり、永遠の命すら富によって得られる。
つまり、これは単なるSFではなく、現代の資本主義社会を極限まで抽象化・風刺した社会批評的寓話なのです。
本作には「貧乏人は一秒ごとに死と隣り合わせ」「金持ちは100年を平気で浪費する」といった、階級間の時間感覚の違いが描かれます。
これこそが現代の経済格差の本質:
労働者は朝から晩まで働き、生活の維持に追われる。
富裕層は資産から不労所得を得て、時間を「買う」ことができる。
映画が示すように、富を持つ者は「時間のコントロール」も手に入れ、寿命ですら不平等に支配していく。この極端な構図は、現代社会における以下の問題と重なります。
ブラック労働・過労死
ワーキングプアの連鎖
資産継承による“命の世襲”
つまり、『TIME/タイム』は「自由時間を持てるか否か」こそが現代の“真の支配力”であることを提示しています。
主人公ウィルの行動原理は非常にシンプルです。
「時間があれば母は死ななかった。だから、この世界を変える。」
彼は“余命”を社会的に支配されるこの構造そのものに怒りを抱きます。そして、富を奪い返し、民衆に時間を分け与える。
ここにあるのは、単なる“盗み”ではなく、“命の再分配”です。
命を支配するルールは正しいのか?
誰がそのルールを作ったのか?
支配される側には、反抗する権利があるのか?
これは現代にも通じるテーマです。貧困、差別、格差といった“不条理”に立ち向かう者たちへのエールと読めます。
興味深いのは、ウィルとシルビアの関係性です。
シルビアは元々“支配者階級”の人間ですが、ウィルとの逃亡生活を通じて「時間=命」という現実を知り、視点を変えていきます。
愛とは、同じ時間を生き、命を分け合うこと。
恋愛映画にありがちな「永遠の愛」ではなく、「限られた時間の中で何を共有するか」というテーマにシフトしています。
だからこそ、ウィルとシルビアは愛し合いながら、同じ目的へ向かい、最後には“命を賭けて”世界を変えようとする。
これは単なるSFアクションではなく、「社会の構造を変える愛の形」としてのロマンスとも言えるのです。
『TIME/タイム』は単に面白いアイデアに基づく映画ではありません。
“人生の時間をどう生きるか”という、普遍的かつ哲学的な問いを投げかけています。
仕事ばかりで“時間”を失っていないか?
誰かに奪われている“時間”はないか?
あと何時間、あなたは“本当に生きて”いられるのか?
この映画を観たあと、自分の生活をふと見つめ直したくなるはずです。
💬 あなたの「今この瞬間」は、いくらの価値がありますか?
映画『TIME/タイム』(2011)は、時間が通貨であり、命そのものであるという強烈な設定が魅力のSF作品。
この斬新なアイデアに惹かれて、最も楽しみにしていた洋画だった。
物語はよく設計されていて、格差社会を風刺する構図も明快。
ただ、個人的にはもう一段階、物語上の“意外性”や“衝撃”が欲しかった。
時間というルールの中で、もっと予想外のどんでん返しや構造的な罠が仕込まれていれば、より心を揺さぶられたかもしれない。
また、「どうやって人間の寿命を“時間”で管理しているのか?」という根本部分にやや説明不足を感じた。
設定自体は興味深いのに、科学的・社会的な裏付けの描写が薄く、リアリティに欠けて見えたのは惜しいところ。
それでも、アマンダ・セイフライドの存在感は抜群。
強さと美しさを併せ持つ彼女のキャラクターが、この世界の冷たさの中でひときわ鮮やかに映えていた。
ある意味、それだけでも観た価値はあった。
良くできたアイデアと魅力的な世界観を備えた映画。
けれど、“もっと何かが起きる”ことを期待していた自分にとっては、少し物足りなさの残る一作だった。
👉 評価:68点(100点満点中)