
2025年10月28日、東京プリンスホテルで開催された「東京ドラマアウォード2025」。
主演・助演の主要4部門を制したのは、松坂桃李、奈緒、杉咲花、角田晃広という、今のドラマ界を牽引する4人の俳優たちだった。
それぞれの受賞には、演技力だけでなく、作品への向き合い方と人間としての誠実さが反映されている。
今年の受賞結果は、“俳優という生き方の現在地”を映すものだった。
松坂桃李──知性と情熱で挑んだ「御上先生」、主演男優賞が示す到達点

主演男優賞を受賞した松坂桃李は、2025年1月期の日曜劇場『御上先生』(TBS)で、東大卒の文部科学省官僚・御上孝を演じた。
官僚派遣制度により私立高校へ出向となる御上が、教育現場の矛盾と権力構造に立ち向かう姿を描いた本作は、学園ドラマの新機軸として高く評価された。脚本を担当した詩森ろばは脚本賞も同時受賞している。
授賞式で松坂は、「今までにない学園ドラマを作りたいという熱い思いでスタートした作品」とコメント。
短いスピーチ時間を気遣いながらも、「ありがたい賞を獲れたことが本当にうれしい。これを噛み締めながら、次の作品へ精進していきます」と穏やかに語った。
2009年に『侍戦隊シンケンジャー』で俳優デビューして以来、松坂は社会派ドラマからヒューマン映画まで幅広く活躍。
近作では、映画『流浪の月』(2022年)、『雪の花 ―ともに在りて―』(2025年1月公開)、『フロントライン』(2025年6月公開)、そして劇場アニメ『ひゃくえむ。』(2025年公開、声の出演:トガシ役)など、映像表現の多様さを重ねてきた。
2027年放送予定のNHK大河ドラマ『逆賊の幕臣』では主人公・小栗忠順を演じる予定で、その演技の深みはいっそう注目を集めている。
奈緒──「自分の目で見たものを信じて」、“素直に生きる”を体現した主演女優賞

主演女優賞を受賞した奈緒は、NHKドラマ10『東京サラダボウル』(2025年1月〜3月放送)で、国際捜査係の警察官・鴻田麻里を演じた。
緑髪のビジュアルと冷静な判断力を併せ持つ麻里は、異文化が交差する東京を舞台に、人々の信頼と衝突の間で葛藤するキャラクター。
松田龍平演じる警視庁通訳官・有木野了とのダブル主演も話題を呼んだ。
受賞スピーチで奈緒は、「海外からも多くのキャストが参加してくださいました。一緒に作り上げた作品です」と感謝を述べ、
「私自身も、鴻田麻里のように自分の目で見たものを信じて、素直に日々を生きていきたい」と語った。
この言葉には、彼女の表現者としての姿勢そのものが表れている。
2016年の映画『雨女』でスクリーンデビューして以来、奈緒は『あなたの番です』シリーズや『ファーストペンギン!』(2022年)、『あなたがしてくれなくても』(2023年)など、現代女性のリアルを誠実に演じてきた。
映画『マイ・ブロークン・マリコ』(2022年)や『傲慢と善良』(2024年)などでは、心の痛みと希望を等しく描く演技が高く評価されている。
今回の受賞は、感情を丁寧にすくい取る彼女の“確かな表現力”への評価だ。
杉咲花──助演という立ち位置で咲いた存在感、「海に眠るダイヤモンド」の朝子役で魅せた確かさ

助演女優賞を受賞した杉咲花は、日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS/2025年1月期放送)で、神木隆之介演じる主人公・鉄平の幼なじみであり、長崎・端島の食堂を支える娘・朝子を演じた。
70年にわたる愛と家族の絆を描く重厚な物語の中で、杉咲は静かに物語をつなぐ“温かな存在”として視聴者の心を捉えた。
授賞式では、「素晴らしいチームの皆さまとご一緒できただけでも幸せ。こんなに素敵な賞をいただけてうれしく思っています」と笑顔を見せ、
「昨年は自宅で授賞式を観ていて、同じ空気を味わいたいと思っていました。そんな日々を今は愛おしく思います」と、当時の心境を穏やかに振り返った。
2016年の映画『湯を沸かすほどの熱い愛』で、第40回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞・新人俳優賞を受賞。以降、『市子』(2023年)や『52ヘルツのクジラたち』(2024年)、ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(2024年)など、感情の機微を丁寧に演じる姿勢で信頼を得ている。
今回の受賞は、主役・助演を問わず作品全体を支える“表現の精度”への評価といえる。
角田晃広──笑いの延長線上に見えた“人間ドラマ”、「ホットスポット」で見せた演技の深み

助演男優賞を受賞した東京03の角田晃広は、『ホットスポット』(日本テレビ系/2025年3月放送)で、主人公・遠藤清美(市川実日子)の同僚・高橋孝介を演じた。
富士山を望む山梨のビジネスホテルを舞台に、シングルマザーが“宇宙人との出会い”をきっかけに日常を変えていくという、バカリズム脚本のオリジナルコメディだ。
授賞式では角田が、「東京03という3人組でコントをやっていますが、今回のドラマではそこで培ったものをすべて生かすことができました。スタッフから“壮大なコントのつもりでやっていい”と言われていたんです」と語り、会場を笑わせた。
芸人としての瞬発力に加え、俳優としての繊細な表現を融合させた今回の演技は高い評価を受けた。
角田は1973年生まれ。飯塚悟志、豊本明長とともに2003年に東京03を結成し、2009年の『キングオブコント2009』で優勝。
近年は『大豆田とわ子と三人の元夫』(2021年)や『半沢直樹』(2020年)などでも印象的な役を演じており、コント職人として培った観察眼が俳優業にも生かされている。
それぞれの“今”が映し出す、日本のドラマの未来
松坂桃李の理知と情熱、奈緒のまっすぐな誠実さ、杉咲花の繊細な存在感、角田晃広の柔軟な演技力。
4人の俳優がそれぞれ異なるフィールドで、自分のスタイルを磨き続けている。
東京ドラマアウォード2025は、単なる受賞の場ではなく、「ドラマが人を描き、人がドラマを創る」その原点を再確認させる舞台となった。
俳優たちの歩みが示すもの
2025年のテレビドラマ界は、“人間そのもの”に焦点を当てる作品が増えた年でもある。
『御上先生』は教育と権力の問題を、
『東京サラダボウル』は異文化共生と都市のリアリティを、
『海に眠るダイヤモンド』は記憶と家族の絆を、
『ホットスポット』は笑いを通じて孤独や希望を描いた。
そのどれもが、社会の空気を取り込みながら“個の物語”を紡いでいる。
そして、その中心に立つ俳優たちが、現代ドラマの質を押し上げている。
東京ドラマアウォード2025は、彼らの演技を通じて──「俳優が作品を変える力」を改めて証明した夜だった。


































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