
「大きな事件は起きないのに、なぜか心に残る」
ヤマシタトモコの作品を読んだ人が、共通して感じる読後感だ。
恋愛、家族、仕事、孤独。題材自体は決して珍しくない。だが彼女の漫画は、それらを“物語として消費させない”。読み終えたあと、登場人物の沈黙や選択が、ふとした瞬間に思い出される。その静かな余韻こそが、ヤマシタトモコという漫画家の最大の特徴だ。
2026年1月、そんな彼女の新たな連載『竜巻』がスタートする。さらに、原作を手がけた『違国日記』はTVアニメとして放送開始を迎える。
今、ヤマシタトモコの作品世界に触れる入口が、いくつも用意されている。
ヤマシタトモコの漫画は、何が他と違うのか
ヤマシタトモコの作品には、分かりやすいヒーロー像も、勧善懲悪の構図もほとんど登場しない。描かれるのは、感情をうまく言葉にできない人、判断を先延ばしにしてしまう人、誰かと距離を取りすぎてしまう人たちだ。
特徴的なのは、感情をセリフで説明しすぎない点にある。
視線のズレ、会話の間、言い淀み。そうした細部の積み重ねによって人物像が立ち上がるため、読者は「説明される」のではなく、「気づかされる」形で物語を受け取る。
この手法は派手さはないが、読者の人生経験と強く結びつく。そのため、同じ作品でも読む年代や立場によって、心に残る場面が変わる。
代表作『違国日記』が多くの支持を集めた理由

ヤマシタトモコの名前を広く知らしめた作品のひとつが『違国日記』だ。
この作品は、作家として生きる女性と、事情を抱えた少女の共同生活を軸に進む。血縁関係でも恋愛関係でもない二人が、無理に分かり合おうとせず、少しずつ距離を測りながら日常を重ねていく。
物語の中心にあるのは「他人と一緒に生きること」の難しさだ。
分かり合えないこと、踏み込みすぎないこと、それでも隣にいること。そうした感情の揺れが、過度な演出なしに描かれていく。
この『違国日記』は、2026年1月4日(日)よりTVアニメの放送が開始される。原作の空気感をどのように映像化するのか、原作ファンだけでなく初見の視聴者からも注目を集めている。
新連載『竜巻』は、どんな物語なのか
2026年1月4日(日)12時、ヤマシタトモコの新連載『竜巻』がWEB媒体「OUR FEEL」でスタートする。
ジャンルはサスペンス群像劇。
ある出来事をきっかけに、複数の登場人物の人生が連鎖的に絡み合っていく構成となっている。ここでも、単なる事件解決よりも、出来事によって生じる感情の変化や選択が丁寧に描かれる。
第2話は1月8日に更新され、その後はTVアニメ『違国日記』第10話までの放送期間中、毎週木曜日に特別更新が行われる予定だ。同日24時から始まるアニメ放送とあわせて、読者・視聴者が作品世界に触れ続けられる形になっている。
アニメと新連載が同時期に展開される意味

公式発表では、『竜巻』はTVアニメ『違国日記』の放送開始にあわせて始動すると案内されている。
原作漫画、アニメ、新連載という複数の入口が同時に存在することで、初めてヤマシタトモコに触れる人も、既存の読者も、それぞれの位置から作品世界にアクセスしやすい。
これは派手なメディアミックスではない。あくまで「物語を読む・観る時間」を丁寧に重ねてもらうための設計だと言える。
ヤマシタトモコの“現在地”を知るということ
ヤマシタトモコの作品は、刺激や爽快感を前面に出すタイプではない。だが、日常の中でふと立ち止まったとき、思い返したくなる場面を確かに残す。
『違国日記』のアニメ放送と、『竜巻』の連載開始。この二つは、過去作の再評価と新たな挑戦が同時に進行している状態でもある。
もし今、感情をうまく言葉にできないと感じているなら。もし物語に、答えよりも「考える余白」を求めているなら。
ヤマシタトモコという漫画家は、その入口として十分すぎる存在だ。

