カメラマンから観た映画『ちはやふる -上の句- 』の感想・評価 シリーズPART4
僕は、よく、というか定期的に必ず、思い出すようにこういう青春ものの映画を見に行く。それは自分が身につけてしまったずる賢さというか鷹揚さを取り除くために、または子供心の純粋さを取り戻すためとでもいいますか。
わかりにくいですが、大人になるにつれ、人間は灰色に近い領域をたくさん抱えると思うのです。本音と建前、潔癖と鷹揚、夢と現実。
きっと前者から何もかも始まったはずなのに、気づいたら、その境界線、中間の部分が溶け合った場所や考えで生きてしまう。それは仕方ないのことなのです。
前者で生きていくには世の中はあまりに理不尽すぎることで満ちあふれている。でも純粋さは、絶対に忘れてはいけないことなのだと思っています。だから青春のあのどうしようもなく気難しくて、それでいて漠然とした未来に飛び込んでいける世界を見るのです、からっぽになって。
前置きが長くなりましたが、そのタイミングで出会った青春映画が今回は「ちはやふる〜上の句〜」でした。
本作は、原作は発行部数1600万部を超える超人気コミック。広瀬すず扮する綾瀬千早が瑞沢高校でカルタ部を創設しようと奔走するところから物語は始まる。”競技カルタ(=百人一首)”に情熱を賭ける高校生の姿をみずみずしく描いた作品。
BGMのタイミングの良さと効果的なスローモーション、競技シーンの画のバリエーション
僕は原作を読んだことがないものの、やはり漫画が元の映画っていうのは演技が嫌にわざとらしく見えてしまうことが多く、本作もまさにそうでした(苦笑)。
ただ映画の良いところは、BGMのタイミングの良さと効果的なスローモーション、競技シーンの画のバリエーションと様々な要素から成り立っているところ、最終的には演技等、全部ひっくるめて楽しめました。
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お気に入りのシーンは、師匠の原田先生が「賭けてからいいなさい」と言うところ。
綾瀬千早のまっすぐさには純粋さや青春のキラキラしたものを、真島太一からは青春独特の葛藤や甘酸っぱいほろ苦さを、綿谷新からはその儚さを、はっきりとだったり、かすかだったり、度合いは違えど感じ取れた。何もかもからっぽの状態で観ることで、徐々に純粋さを取り戻せたような気がします(笑)
特にお気に入りのシーンは、太一の「青春全部賭けたって、、、」の台詞に対して師匠の原田さんが、「賭けてからいいなさい」と言うところ。CMでは即座に切り返しているように見えるけど、実は、その間に一首を例えに諭すシーンがある。
実は僕の中学校には行事としてなぜか競技カルタがあって、その歌は覚えていた。面白い語感だなくらいでしか覚えていなかったけれど、そんな意味があったのかと感心した。人事を尽くして天命をまつ、そんな感じ。
辞める理由はたくさん転がっているけれど、続けることに賭けるという行為は、辞めるよりももっと重い、失う覚悟を持って挑むことだと思う。そこまでやって初めて神は振り向くのだと。失敗ばかり恐れていた中学時代の自分に見せてやりたいシーンでしたね。
何かを写すということは、写すものを「思いやる」こと。感情に余計なフィルターはいらない。
カメラ的には特筆することはないというか(実はあるのですが)、今回は流れ的に精神的なことを描きたいと思います。ここで前述した純粋さにも少しつながってくるのですが、まぁ、本当に少しです。
独学、かつ技術も知識も経験もまだまだの駆け出しの僕が、何とかカメラで食っていけている理由かなと自己分析していること、それは”思いやり”です。
何かを写すということは、写すものを「思いやる」ことなのだと思っています。この人を、この景色を、綺麗に撮ってあげたいと強く思うこと。
そうすると、じゃあこの角度から撮った方がいいな、この部分が中途半端に入ってくるとダメだなと、様々なことが見えてきます。正解ではなかったとしても、そう全力で思い挑むことで、かすかであっても確実に経験は浸透していき、どこかで息づいて、いつか何かと混ざって芽吹くのだと思うのです。
そのために純粋に相手やものや、経験を思いやれるように、また青春映画を観るのです。心をからっぽにして純粋に観るのです。感情に余計なフィルターはいらないのです。
不器用な僕の今現在の手持ちの武器は、まだそれしかないのです。頑張ります!
PROFILE
NAME:木下 昂一
通称:chip(チップ)
LIVEやWEB媒体のスチールを中心に、イベントやPVの動画撮影などで活動、活躍中。
2016年には『APAアワード2016』で入選を果たす。
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「ENJOY CINEMA」で新コーナーがスタートしました!
題して「カメラマンから観た映画◯◯!!」ということで、エンジョイシネマに所縁のあるカメラマン、通称「チップ」に上映中の最新映画から過去の名作まで、あらゆるジャンルの作品を「カメラマン目線」で自由に語ってもらうコーナーとなっています!
写真や動画の撮影に興味がある方は勿論、それらに触れたことがない方も、このシリーズを通して、また一味違った角度から作品を観ることで、より一層その作品の理解や楽しさが膨らむと思っています!
また、このシリーズを通してカメラマンだけではなく、一つの作品が完成するまでに、映像には映らない「影の立役者」「縁の下の力持ち」の存在を知ってもらうきっかけになればと思い企画をスタートさせました!肩の力を抜いてこのコーナーを今後も楽しんで頂ければ幸いです。編集長
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