映画「母と暮らせば」あらすじ・観る前に知っておきたいこと
山田洋次監督、映画「母と暮らせば」は、原爆を投下された長崎が舞台となっています。
出演は、嵐の二宮和也、実力派女優の黒木華、そして大物女優、吉永小百合。いったいどのような映画なのでしょう?
母と暮らせば 概要・解説
「父と暮せば」と対になる映画
映画「母と暮らせば」は、日本を代表する劇作家、井上ひさしの戯曲(舞台脚本)「父と暮せば」と対になる形として制作された映画です。
井上さんは原爆に非常に強い関心を持っており、当時は長崎や広島を聖地だと考えていたようです。
「父と暮らせば」は広島が舞台となっていますが、「母と暮らせば」は長崎が舞台となっています。
山田洋次監督初のファンタジー
物語は、長崎で暮らす一人の女性・伸子の前に原爆で死んだはずの息子・浩二が現れるという山田洋次監督初のファンタジーとなってします。
しかし終戦70年という節目に生まれた本作は、原爆によって愛する人を失った悲哀をリアルに伝えてくれます。
この作品に触れる事によって、普段何気なく享受している当たり前のことが幸せなことだと気付かせてくれる。
注目の役者
伸子役:吉永小百合
(山田洋次監督作品『おとうと』『母べえ』でもお馴染み)
その息子・浩二役:二宮和也
(山田組に初参加)
浩二の恋人・町子役:黒木華
(ベルリン国際映画祭銀獅子賞「女優賞」を受賞)
【母と暮らせば 予告動画】
あらすじ
長崎に原子爆弾が投下された1945年8月9日から3年後の話。
助産師として働く伸子(吉永小百合)の前に、原爆で死んだはずの息子・浩二(二宮和也)が突如現した。
「母さんは諦めが悪いから、なかなか出てこられなかったんだよ。」
浩二が現れたその日、伸子は浩二の墓の前で
「あの子は一瞬の間に消えてしまったの。もう諦めるわ。」
と誓ったばかりでだった。
「元気かい?」
と伸子が訪ねると浩二は腹を抱えて笑い出した。
「僕はもう死んでるんだよ。元気なわけないだろ。」
それからというもの浩二は度々現れるようになり、伸子と思い出話や浩二の恋人・町子(黒木華)について色々な話をするのだった。
しかし生前と何も変わらない会話をしながら、母と子はお互いに触れ合うことはできなかった・・・・・・
そして結婚の約束までした町子も、突然浩二を失った悲しみから立ち直れずにいた。
それでもこの3年間伸子を気にかけ続けてくれた優しい娘であった。
「浩二もし町子に好きな人ができたら諦めるしかないのよ。だってあなたはこの世のひとじゃないのだから。」
そんな伸子の言葉に口を尖らせる浩二。
どうしても浩二はそのことが受け入れられなかった。
伸子はそんな息子を愛おしく感じた。母と子のその奇妙ながら楽しい時間は永遠に続くかと思われたが・・・・・・
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「母と暮らせば」を観る前に知っておきたいこと
社会派映画としての『母と暮せば』
本作は、母の前に原爆で死んだはずの息子・浩二が現れるという設定からファンタジーと言えるが、観客の心にストレートに響くテーマは社会派としての側面を強く感じる。
この映画を見ることで、戦後70年という節目の今、改めて考えらされることは多い。
広島、長崎に投下された原爆という事実は今、次の世代に語られる形で伝承される過渡期にあり、世界で唯一の被爆国であることも世代が変わることで薄れつつある。
本作のようなメッセージ性の強い作品が世に送られることで原爆投下の事実は風化しない。とても重要なことだ。
それと当たり前のことだが、今日本に戦争がないこと、家族といられること、恋人といられること、を普通に享受できるありがたさというのも改めて認識することができる。
今となっては、原爆投下はある種の運命のように感じてしまうが、あれは間違いなく人間の業であり、悲劇である。それによって繋がっていくはずの命の系譜も断たれてしまったのだ。
本作では、浩二が恋人・町子が次に進むことを受け入れることができるかがテーマとして描かれているが、それは原爆投下によって命の系譜が変わってしまったことを伝えてくれた。
原爆投下がなければ、町子がまた別の人を好きになることはなかったはずだ。
死んだはずの浩二が再び現れるという設定はファンタジーでありながら、それによって原爆投下が人間の愚かな歴史であることを深く刻んでいく。
日本を代表する劇作家・井上ひさしと日本を代表する映画監督・山田洋次
井上ひさしは劇作家と小説家の顔も持ち、その創作活動は「難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを面白く」が常に心がけられていた。
ゆえに言葉に関する知識は国語学者並みであった。
そんな井上ひさしであるが、彼の戯曲(舞台脚本)は現代日本において一級品と言われるほど特に評価が高かった。
彼が亡くなった際には、三谷幸喜、別役実、野田秀樹ら日本を代表する同じ劇作家たちから最大級の賛辞が寄せられた。
日本を代表する劇作家・井上ひさしは作家として遅筆でも有名であった。
そのことは本作を山田洋次監督が手掛けるきっかけとなったように思う。
井上ひさしは晩年に広島、長崎、沖縄をテーマにした「戦後命の三部作」という構想を描いていた。
広島は「父と暮せば」で描かれたものの、その構想は未完のままだった。
そしてその意思を継ぐ形で日本を代表する映画監督・山田洋次が広島を描いた「父と暮せば」と対になる長崎を描いた作品『母と暮せば』を完成させた。
山田洋次監督は、50年以上のキャリアがあり83本もの映画を撮ってきた巨匠と言うに相応しい監督だ。
そんな監督が集大成として本作に挑んだことで、日本を代表する二人のコラボレーションが実現した。
これは舞台、映画、それぞれのファンにとって幸せなことだと思う。