
『二十世紀電氣目録-ユーレカ・エヴリカ-』とは?
京都アニメーションが2026年に送り出す最新作『二十世紀電氣目録-ユーレカ・エヴリカ-』。
それは、京アニがこれまで積み重ねてきた“人の再生を描く物語”の系譜にありながらも、これまでにないテーマと舞台設定で挑む意欲作だ。
物語の舞台は、蒸気機関だけが発達した20世紀初頭の京都。電氣という概念がまだ夢に過ぎなかった時代、少年・坂本喜八は兄を亡くし、夢と情熱を失っていた。
そんな彼の前に現れるのが、信仰心を胸に生きる少女・百川稲子。亡き母への憧れと後悔を抱えた彼女との出会いが、喜八を再び「電氣の時代」という夢へと導いていく。
二人が追う“二十世紀電氣目録”の謎は、やがて過去と未来、信じることと疑うことをめぐる再生の物語へと変わっていく。
京アニが描く“電氣の時代”

本作を手がけるのは、『響け!ユーフォニアム3』で演出を担当し、今回が初監督となる太田稔。
彼は「挫折から立ち上がる人々の姿を描きたい」と語り、京アニ作品に共通する“人の心の再生”をテーマの中心に据える。
脚本を担うのは『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』シリーズの浦畑達彦。人の感情を丁寧に掘り下げる語り口に定評があり、今作でも時代のうねりと人間の内面を繊細に交錯させる物語構成が期待される。
キャラクターデザインと総作画監督は岡村公平。『Free!-the Final Stroke-』で躍動感あるキャラクター表現を生み出した彼が、本作では“電氣がまだ存在しない世界の光”をどう描くかにも注目が集まる。

さらに、世界観設定は『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』や『ガールズ&パンツァー』の鈴木貴昭。
史実と空想のはざまにある“もしも存在したかもしれない20世紀の京都”を、緻密な考証と想像力で構築している。
音楽は湖東ひとみ。劇伴制作は初挑戦ながら、「信じる力が人を再生へ導く」という作品の精神を、静かな旋律で支えていく。
登場人物たちの再生劇
主人公・坂本喜八を演じるのは内田雄馬。

オーディション時には“この時代の息遣い”を意識して芝居を作り上げたという。彼の繊細で力強い声が、挫折を抱えながらも再び立ち上がる喜八の姿に命を吹き込む。
ヒロインの百川稲子を演じるのは雨宮天。

設定資料を見た瞬間「この子を演じたい」と強く思ったと語り、純粋さと芯の強さを併せ持つ稲子像を、真っすぐな芝居で表現していく。
物語は決してシリアス一辺倒ではなく、ところどころにユーモラスなやり取りも散りばめられており、“信じる”というテーマを重くなりすぎないバランスで描いているという。
作品の核にある「信じる力」
監督の太田稔は、「挫折したキャラクターたちが出会い、衝突し、もう一度立ち上がる物語」と語る。
音楽を手がける湖東ひとみも「疑うことが必要な時代だからこそ、信じる心が再生を生む」とコメントしており、作品全体に“信念と希望”の美学が流れている。
このテーマ性は、かつて『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』で人の心を描き切った京アニの表現と通じており、まさに“京アニ的再生譚”の新たな到達点といえるだろう。

公開情報と今後の展開
本作は、2026年にTVアニメとして放送予定。
情報は「第7回京都アニメーションファン感謝イベント『私たちは、いま!! ―京アニのセカイ展―』」で発表され、公式サイト・公式X・Instagram・Threads・TikTok・英語版アカウントも同時にオープンした。
公開された第1弾PVでは、蒸気と光が交錯する幻想的な京都の街並みが描かれ、ファンの間では「京アニ美術の新境地」と話題に。
また、キャストのサイン入りポスターやオリジナルポストカードが当たるキャンペーンも実施中で、SNS上では早くも盛り上がりを見せている。
“電氣の夢”が照らす、京アニの新章へ
『二十世紀電氣目録-ユーレカ・エヴリカ-』は、失われた夢をもう一度信じる物語。
過去に囚われた登場人物たちが、それでも前を向こうとする姿は、きっと多くの視聴者の心に灯をともすだろう。
京アニが描いてきた「生きる力」や「他者を想う優しさ」が、この新しい“電氣の時代”でどのように表現されるのか――その瞬間を、2026年の放送で確かめたい。
【考察】“電氣”が照らすもの──『ユーレカ・エヴリカ』が問いかける時代の希望
『二十世紀電氣目録-ユーレカ・エヴリカ-』というタイトルには、単なる文明史的なロマンを超えた、深い象徴性がある。
“電氣”は、物語の中で「まだ見ぬ時代の象徴」であり、同時に「信じる力」の比喩でもある。蒸気という旧時代の熱と力に頼っていた世界で、電氣は目に見えないエネルギー——それは信仰にも、希望にも似ている。見えないけれど確かに存在する“信じる何か”が、人をもう一度前へと進ませる。
喜八が抱える「夢を失った痛み」、稲子が抱く「信じることへの祈り」。この二人が出会い、互いに少しずつ変わっていく姿は、まるで“電氣が灯る瞬間”のようだ。光は一瞬で世界を変えるわけではない。だが、誰かの中に宿った小さな火花が、やがて周囲を照らす。京アニがこの物語を通して描こうとしているのは、そんな静かな再生の連鎖だろう。
また、タイトルにある「ユーレカ・エヴリカ(Eureka)」は古代ギリシャ語で「見つけた!」という意味を持つ。

科学者アルキメデスの叫びとして知られるこの言葉を副題に冠することで、作品は“発見”という主題を内包している。
ここで言う発見とは、失われた文明の遺物ではなく、“自分自身の中にある答え”を見つけること。つまり、喜八たちの旅は「電氣という新時代を見つける」だけでなく、「信じる力をもう一度見出す」精神的な探求でもあるのだ。
京都アニメーションの作品群を振り返ると、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』や『ツルネ』など、いずれも“心の回復”を描いてきた。だが本作では、個人の癒しを超えて、“時代の転換点における再生”というより大きなスケールへと踏み出している。
電氣が生まれる前夜、社会が不安と期待の狭間で揺れる中、登場人物たちは何を信じ、どう生きるのか。その選択が、今を生きる私たちへのメッセージとして響く。
『二十世紀電氣目録-ユーレカ・エヴリカ-』は、懐かしさと革新が共存する“京アニの新章”だ。
「人はなぜ光を求めるのか」「信じることは、時代を超えて意味を持つのか」——その問いに対する答えを、静かに、しかし確かな熱量で描いていく。
きっとこの作品は、放送が始まったその瞬間に、観る者それぞれの心の奥に小さな“電氣”を灯してくれるに違いない。
















