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森田剛は、なぜ“閉じた場所”に立ち続けるのか――舞台で更新される現在地

森田剛は、なぜ“閉じた場所”に立ち続けるのか――舞台で更新される現在地

森田剛という俳優を追っていくと、ひとつの傾向が浮かび上がってくる。

それは彼が近年立ち続けている舞台の多くが、「外へ開かれた世界」ではなく、「逃げ場の限られた、閉じた空間」であるという点だ。

社会から切り離された男。極限状況に置かれた存在。自由を奪われた場所で、選択を迫られる人間。

次に彼が挑む舞台もまた、砂に囲まれ、容易には抜け出せない場所を舞台にしている。

なぜ森田剛は、こうした環境に身を置く作品を選び続けているように見えるのか。

その理由を断定することはできないが、現在の活動を辿っていくと、舞台という場に彼が見出している価値が、少しずつ輪郭を帯びてくる。







テレビの中心から、舞台という密度の高い場所へ

森田剛は1995年、V6のメンバーとしてデビューした。音楽活動を軸に、バラエティ番組、ドラマ、映画と、長年にわたり幅広いメディアで活躍してきた存在である。

一方で2000年代以降、舞台作品への出演が徐々に増えていったことも事実だ。それは活動の場を「移した」というより、表現の質や向き合い方を変えていった過程と捉えることができる。

舞台は、その場に立つ俳優の身体と声が、直接観客に届く場所だ。編集も修正もなく、一度発したものは取り消せない。

森田剛は早くから、その緊張感のある空間に継続して立ってきた。

2021年のV6解散と独立以降、彼の出演作は決して多作ではない。

しかし、舞台を中心に選ばれた作品群からは、ひとつひとつの現場に深く関わろうとする姿勢がうかがえる。

「閉じた場所」が浮かび上がらせる人間の輪郭

森田剛が演じてきた近年の役柄を振り返ると、登場人物たちはしばしば、物理的あるいは心理的に逃げ場の少ない状況に置かれている。

それは派手な感情表現を伴う役ではない。

むしろ、感情を外に出せないまま、内側で揺れ続ける人間が描かれることが多い。

舞台『砂の女』も、その延長線上にある作品だ。

森田剛は、なぜ“閉じた場所”に立ち続けるのか――舞台で更新される現在地

安部公房の小説を原作とする本作で、森田が演じるのは、砂丘に囲まれた部落の穴に留め置かれる男・仁木順平。

外界との行き来が断たれた空間で、日常と非日常の境界が徐々に失われていく。

この設定が要求するのは、分かりやすいドラマではなく、状況に置かれた人間がどのように時間を過ごし、思考を変化させていくのかという、細やかな積み重ねだ。

現在の森田剛が、このような役に立つことは、ごく自然な流れにも見える。







台詞より先に伝わるもの

森田剛の近年の演技は、声量や感情の強さで押すタイプのものではない。

沈黙や間の取り方、身体の位置、視線の向きといった要素が、役の状態を語る場面が増えている。

舞台という環境では、そうした細部が観客に直接伝わる。言葉で説明されなくても、「今、何が起きているのか」を感じ取らせる力が必要になる。

『砂の女』のキービジュアルでは、藤間爽子演じる女と森田剛が身体を寄せ合う姿が写し出されている。そこに描かれている関係性は、恋愛とも依存とも断定できない、曖昧な距離感だ。

関係性を言葉で定義しないまま成立させる表現は、現在の森田剛が多くの舞台で取り組んできた領域と重なっている。

なぜ今、この作品に立つのか

舞台『砂の女』の脚本・演出を手がけるのは山西竜矢。

原作の持つ不条理性を踏まえつつ、舞台作品として立ち上げる構成が試みられる。

この作品は、役者にとって長時間にわたり集中力を保つことが求められる可能性のある舞台だ。

環境の変化が少ない分、俳優自身の状態が、そのまま舞台上に現れる。

森田剛がこの作品に出演する理由について、本人が明確に語っているわけではない。

ただ、近年の出演作の傾向を踏まえると、役を「演じる」こと以上に、その状況に身を置く時間そのものを大切にしているようにも見える。







舞台に立つことで確認される現在地

森田剛は、自身のキャリアを振り返る発言を多く残しているタイプの俳優ではない。過去の成功や立場を前面に出すことも少ない。

その代わり、彼の現在地は、次に立つ舞台によって示されているように見える。

どの作品を選び、どの役を引き受けるのか。その積み重ねが、その時点での「森田剛」を形づくっている。

舞台『砂の女』は、到達点というより、現在進行形の選択のひとつだろう。閉じた場所に立ち、簡単に答えの出ない状況を引き受ける。その姿勢自体が、彼の活動を特徴づけている。

不自由な役が観客に残すもの

森田剛が近年演じる役は、必ずしも感情移入しやすい人物ばかりではない。

観ていて居心地の良い存在とは言えず、距離を感じる瞬間もある。

それでも舞台を見終えたあと、強い印象が残るのは、登場人物が置かれた状況が、現代を生きる私たちの感覚とどこかで重なるからかもしれない。

選択肢が多いようで、実際には簡単に抜け出せない環境。声を上げても状況が大きく変わるわけではない日常。

『砂の女』に描かれる「穴」は、極端な設定ではあるが、その構造自体は現代社会とも重なる部分がある。

森田剛は、そうした場所に置かれた人間を、美化も単純化もせずに舞台に立たせる。観る側に明確な答えを提示しない代わりに、考え続ける時間を残す。

そのため、観終わったあとに重さや余韻を感じる人もいるだろう。だがそれは、舞台という空間で人間の状態を共有した結果でもある。

舞台『砂の女』公演情報

原作:安部公房 | 脚本・演出:山西竜矢
出演:森田剛 / 藤間爽子 / 大石将弘 / 東野良平 / 永島敬三 / 福田転球

公演スケジュール

東京|2026年3月19日(木)〜4月5日(日)|紀伊國屋ホール

宮城|2026年4月8日(水)|電力ホール

青森|2026年4月11日(土)|SG GROUP ホールはちのへ(八戸市公会堂・八戸市公民館)

大阪|2026年4月18日(土)〜20日(月)|森ノ宮ピロティホール

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すーさん

面白かった‥けど

2024年1月27日

出演者全員芸達者で、早口のセリフの応酬

しかも英語も。

前半の翻訳を違えて話が進んでいくアイデアは面白いけど少々長すぎ。何処かの勘違いコントみたい。

一気にミステリータッチになる後半の方が良かったです。英語と鹿児島弁が飛び交うのは斬新でした。

めいちゃん

ストーリーは雑、音楽はひどい、でも役者さんの技術は高く熱演

2024年1月21日

ストーリーが大雑把でセリフが上滑り、せっかくのベートヴェンの美しいメロディなのに編曲と歌詞がいただけない。舞台芸術も魅力無くセンスが悪い。3時間無駄にした気が。。。役者さんの熱演だけが救いでしたが、心に届く楽曲は1曲もないミュージカルでした。

KP

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この記事を書いた編集者
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ポプバ編集部:Jiji(ジジ)

映画・ドラマ・アニメ・漫画・音楽といったエンタメジャンルを中心に、レビュー・考察・ランキング・まとめ記事などを幅広く執筆するライター/編集者。ジャンル横断的な知識と経験を活かし、トレンド性・読みやすさ・SEO適性を兼ね備えた構成力に定評があります。 特に、作品の魅力や制作者の意図を的確に言語化し、情報としても感情としても読者に届くコンテンツ作りに力を入れており、読後に“発見”や“納得”を残せる文章を目指しています。ポプバ運営の中核を担っており、コンテンツ企画・記事構成・SNS発信・収益導線まで一貫したメディア視点での執筆を担当。 読者が「この作品を観てみたい」「読んでよかった」と思えるような文章を、ジャンルを問わず丁寧に届けることを大切にしています。

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