迷いを抱えたまま進むという、生き方
俳優・窪田正孝は、どんな瞬間も「揺らぎ」を内包している。
強く見える瞳の奥に、どこか不安や葛藤の色が見えるのは、彼が常に“答えのない問い”と共に生きているからだ。
2025年秋、彼は舞台『チ。―地球の運動について―』で主人公オクジーを演じている。
演出はアブシャロム・ポラック、脚本は長塚圭史。哲学的かつ身体的な表現を追求するこの作品は、窪田にとって新しい挑戦であり、俳優人生の転換点ともいえる。
彼は開幕に際し、こう語った。
「約二ヶ月の稽古で、みんなで創造したアイデアが詰まった『チ。』が完成しました。
絶対的存在である宇宙の真理と感動に揺さぶられる人間の生き様を、全員の身体表現で極限までダイレクトに伝えられたらと思います。」
言葉の端々から滲むのは、理屈ではなく「身体で語りたい」という確信。
窪田は今、自分の中の“揺らぎ”を否定せず、それを表現の源に変えようとしている。
自由の先にある「孤独」と「覚悟」
2025年3月、窪田は約19年間所属してきたスターダストプロモーションを退所し、フリーの俳優として再出発した。
公式発表ではこう綴っている。
「一度きりの人生で、何を大切に生きていくのか。もっと視野を広げ、自分を高めてみたい。変化を恐れずに前進したい。」
この言葉は、彼のこれまでのキャリアの延長線上にはない“決別”の響きを持つ。
守られてきた環境を離れ、自らの意思で歩くという選択は、自由と同時に孤独を伴うものだ。
だがその孤独こそ、窪田が「表現者としての純度」を取り戻すための原点なのかもしれない。
テレビや映画で求められる“完成された姿”ではなく、舞台上で“生身の揺らぎ”を晒すこと。
彼はその覚悟をもって、新たな地平に立っている。
舞台『チ。』が映し出す「信念と矛盾」のドラマ
2-1. 原作が描く“信じること”の痛み
原作・魚豊による『チ。―地球の運動について―』(小学館)は、地動説が異端とされた時代に「真理を追求する」人々を描いた群像劇だ。
「人はなぜ信念に命を懸けるのか」というテーマは、現代にも通じる普遍的な問いである。
2-2. オクジーという存在
窪田が演じるオクジーは、知の探求と生の衝動の狭間でもがく人物だ。
彼は理屈ではなく、感情でもなく、「魂の動き」を身体で表現しようとする。
窪田自身が語った「身体表現でダイレクトに伝えたい」という言葉は、まさにこの役の核心と重なる。
2-3. 共演者との“共振”
共演には、三浦透子・大貫勇輔・吉柳咲良・成河・森山未來ら、身体性と精神性を併せ持つ俳優たちが並ぶ。
彼らとの稽古は、窪田にとって「台詞を交わす以上に、呼吸を交わす」体験だったという。
森山未來もまた、「観客の反応を受けて作品が育つ」と語っており、
この舞台は出演者と観客の呼吸で変化していく“生きた作品”として設計されている。
俳優・窪田正孝を形づくる「揺らぎ」の正体
窪田正孝という俳優の魅力は、常に矛盾を抱えたまま生きているところにある。
感情の奥に沈む静けさ。笑顔の裏に潜む緊張。彼の演技は、常に“見えない部分”の熱を孕んでいる。
かつてのインタビューで、彼はこんな言葉を残している。
「現実と芝居の境界はあまり意識したくない。どちらも“生きる”という点で同じだから。」
この感覚は、舞台『チ。』における身体表現とも深く響き合う。
つまり、演技とは“嘘”を積み重ねることではなく、“真実”を削り出す行為なのだ。
彼が長く演じてきた映像作品――『デスノート』『ラジエーションハウス』『エール』など――でも、
繊細な内面と不器用な真っ直ぐさの共存が観る者の心を揺らしてきた。
今回の舞台は、それをさらに一歩進め、「言葉のない真実」をどう伝えるかに挑む場でもある。
“変化を恐れない”という新しい生き方
事務所退所後、窪田の活動には「自分のペースで、自分の感覚を信じる」スタンスが明確に見える。
映像・舞台・アートなど、ジャンルを横断しながら、あくまで“本質”を探る動きを続けている。
一方で、私生活では2019年に女優・水川あさみと結婚。
パートナーとの穏やかな日常も、表現者としての内面を整える重要な要素になっている。
水川もまた演技における身体性や自然体を大切にする俳優であり、
二人の在り方は「無理に飾らず、生き方そのものを作品に昇華する」姿勢で共通している。
揺らぎながらも前進する窪田の生き方は、俳優としてだけでなく、
「変化の時代をどう生きるか」を私たちに問いかけているようでもある。
“身体”で語る時代の俳優として
『チ。―地球の運動について―』の稽古では、
アブシャロム・ポラックのもと、ダンス・発声・呼吸法などを組み合わせた実験的な稽古が続いた。
窪田はその中で、役者というより「ひとりの生命体」として舞台に立つ感覚を得たという。
「言葉では説明できない感情を、体で伝える。
それがこの作品で目指したいことです。」
この姿勢は、「演じる」から「生きる」へのシフトだ。
そしてその先にあるのは、観客の心に直接届く“身体の言葉”――
それは、窪田正孝という俳優が次のステージで探している表現の核心にほかならない。
揺らぎながら、なお前へ
人生の転換期を迎えた窪田正孝は、確固たる答えを求めていない。
むしろ、迷いや不安を抱えたまま、それでも進むことを選んでいる。
『チ。』で描かれる“信念と疑念のはざま”は、まさに彼自身の現在地と重なる。
信じたいのに疑う。立ち止まりたいのに前に進む。
その矛盾こそ、彼が俳優として発してきた最大の真実だ。
観客の前に立つたびに、彼はもう一度「生きるとは何か」を問い直す。
それがたとえ答えのない旅でも、窪田はその一歩を恐れずに踏み出す。
だからこそ、彼の演技はいつだって人の心を震わせるのだ。
<追記:舞台情報>
舞台『チ。―地球の運動について―』
- 東京:新国立劇場 中劇場(2025年10月8日〜26日)
- 愛知:御園座(11月8日・9日)
- 広島:呉信用金庫ホール(11月15日・16日)
- 大阪:梅田芸術劇場 メインホール(11月21日〜23日)
- 福岡:J:COM北九州芸術劇場 大ホール(11月29日・30日)
原作:魚豊(小学館)
脚本:長塚圭史 演出:アブシャロム・ポラック
出演:窪田正孝、三浦透子、大貫勇輔、吉柳咲良、吹越満、成河、森山未來 ほか
窪田正孝─俳優として揺らぎを抱えつつも前へ進む理由
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