北海道の“語り部”が再び舞台に立つ理由
北海道を拠点に全国的な人気を誇る演劇ユニット「TEAM NACS」。その中でも、リーダーとしてだけでなく、脚本・演出家としても独自の道を歩む男がいる──森崎博之だ。
2025年9月、札幌で幕を開けた舞台「HONOR~守り続けた痛みと共に」は、彼が17年前に生み出した物語を自らの手で再構築し、再び世に送り出した作品である。
この再演は、単なる懐古や記念ではない。むしろ、“今だからこそ描き直すべき物語”として、森崎自身が選び直したテーマだった。
演出家・森崎博之の“現在地”と進化
TEAM NACSの活動と並行しながら、森崎博之は長年にわたり“物語を紡ぐ人”としての道を歩んできた。彼の脚本には一貫して「土地」や「人の営み」への敬意が滲む。
とりわけ、北海道という場所性を軸にした作品が多く、「ローカルを描くことで普遍に届く」姿勢は一貫して変わらない。
今回の『HONOR』も例外ではない。舞台となるのは、架空の村・恵織(えおり)。その土地に生きた人々の記憶と葛藤が描かれる。
17年という時の流れを経て、森崎が再びこの物語に向き合った背景には、「語り継ぐべきことがある」という静かな情熱があるように思えてならない。
「HONOR~守り続けた痛みと共に」とは
本作は、戦後の北海道・恵織村を舞台にした群像劇。
かつて村では、神木に祈りを捧げる祭りが行われていたが、戦争を経て祭りは消え、神木も忘れ去られていった。そんな中、ただ一人“ホラ吹き”と呼ばれる男・五作だけが、神木を守り続けている。
子どもたちは五作の話に耳を傾け、太鼓の稽古を受けていたが、大人になるにつれ村を離れ、やがて再び集まることに──五作が倒れた、という知らせによって。
この作品が描くのは、「伝承されることの意味」「記憶を守る責任」そして「信じるという行為の尊さ」だ。
加筆修正を経て再演される今作では、より現代の感情に寄り添う形に物語が磨かれている。それは、コロナ禍を経た社会で“分断”や“忘却”が進む今だからこそ、再び観客の心に届く言葉へと変化している。
鈴井貴之らとの“再会”が生む化学反応
今回のキャストには、TEAM NACSとも縁の深い鈴井貴之をはじめ、北海道発のグループNORDから舟木健・安保卓城・瀧原光、さらに演劇ユニットELEVEN NINESの坂口紅羽らが参加している。
そして、森崎自身も舞台に立つ。
若手からベテランまで多世代のキャストが揃うなか、森崎の演出スタイルは“余白を活かす”ことで知られている。セリフの間や所作に込められた“語られない感情”をどう表現するか──それが彼の演劇の妙だ。
観る者に委ねる余韻と、俳優に託す信頼。森崎の現場は、常に「生まれ続ける物語」を作っている。
17年越しの決意──森崎博之が舞台に立ち、筆をとる理由
「伝えることをやめた時、その物語は終わってしまう。」
森崎博之が今、改めてこの作品に命を吹き込んだ背景には、こうした想いがあるように感じる。
2007年の初演当時は、TEAM NACSが全国区で知られ始めた頃。森崎もまた多忙を極める中での脚本・演出だった。それから17年、演劇界や社会全体が大きく変化した今、「HONOR」は再び立ち上がるべき物語になったのだ。
過去を掘り起こすことに意味があるのではない。“今、未来に届けたい記憶”をもう一度語るために再演がある。
北海道の空気を吸い込み、舞台に立ち、物語を紡ぐ──その姿勢こそが、森崎博之という表現者の真骨頂だ。
森崎博之が「演劇」というフィールドで届け続けるもの
森崎はこれまでも多数の舞台作品で脚本・演出を担当してきたが、その作風はエンターテインメントとヒューマニズムの融合と言える。
たとえば、過去に手がけた「COMPOSER〜響き続ける旋律の調べ」では、歴史上の人物をテーマにしつつ、人間の根源的な孤独や希望を描き出した。
また、「地球の王様」では、“普通”の人々が持つ強さをコミカルに、しかし深く描いていた。
森崎の作品には、「この土地で生きる人たちを、どうすれば面白く、丁寧に描けるか」という視点が常に存在する。それが、東京一極集中の舞台界においても異彩を放つ理由だろう。
特に「HONOR」では、北海道に根ざした物語性と、祭り・神木・継承といった普遍的テーマが融合し、観客一人ひとりの“ふるさと”に語りかけるような力を持っている。
演劇は一過性の芸術だ。幕が下りれば、形には残らない。しかし、心に残った言葉や表情は、観る者の人生に静かに寄り添い続ける。
森崎博之は、そんな“記憶に残る演劇”を作り続けている。そしてそれこそが、彼が今も筆をとり、舞台に立ち続ける最大の理由なのだろう。
17年という年月は、決して短くはない。しかし、語るべき物語がある限り、演劇は何度でも立ち上がる。
そして、それを届ける人が森崎博之であることは、北海道の演劇にとっても、観客にとっても、何よりの“誇り”である。
公演情報
- 作品名:「HONOR~守り続けた痛みと共に」
- 脚本・演出:森崎博之
- 出演:森崎博之、鈴井貴之、舟木健、安保卓城、瀧原光、坂口紅羽
- 会場:かでる2・7 かでるホール(北海道)
- 上演期間:2025年9月6日〜9月13日
- 上演時間:約2時間
森崎博之、17年越しの再演に込めた決意─今、彼が「HONOR」で伝えたいこと
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