一人の男が、いま立っている「舞台」の上で
役者・森田剛。かつて国民的グループV6の一員として多くの人々の青春を彩った彼は、グループの解散後、舞台という“生きた空間”を軸に、役者としての人生を深化させている。
2025年秋、彼が主演を務める舞台「ヴォイツェック」が東京で幕を開けた。この作品は、彼の現在地を象徴する一本として、静かに、しかし確実に多くの注目を集めている。
今、なぜ“ヴォイツェック”なのか。
そして、なぜ森田剛なのか。
その答えは、彼自身の「変化」と「選択」にある。
アイドルとしての絶頂から、“人間”としての俳優へ
森田剛がジャニーズ事務所に入所したのは1993年。当時14歳だった少年は、グループV6、さらにComing Centuryとしてデビューし、バラエティやドラマ、映画、音楽と幅広いフィールドで活躍。多くの人にとって“森田剛”という名前は、テレビで見かける存在だっただろう。
しかし、2000年代に入ると、彼は徐々に“演じること”に軸を移していく。特に2007年の舞台『金閣寺』(演出:宮本亜門)での主演は、彼の俳優としての覚悟を感じさせる転機だった。以降も『ビニールの城』『荒神』『空ばかり見ていた』など、表現者としての挑戦が続く。
そして2021年、V6は解散。約26年にわたるグループ活動を終え、森田剛は独立。事務所を退所し、自身の会社「MOSS」から新たな一歩を踏み出した。
その後の彼の歩みは、決して派手ではない。だが、選び抜かれた舞台作品に出演し続けることで、“目の前にいる観客にすべてを晒す”という覚悟を持って、今の「森田剛」という人物像を築いてきた。
「ヴォイツェック」という男との出会い
そして、2025年。彼が出会ったのが、ゲオルク・ビューヒナーの未完の戯曲を原作とする舞台『ヴォイツェック』だった。今回上演されるのは、イギリスの劇作家ジャック・ソーンによるアダプテーション版。舞台は1981年、冷戦下のベルリンに設定され、兵士ヴォイツェックが心の闇や過去の傷、社会の暴力と葛藤しながら生き抜く姿が描かれる。
森田は、この役に対しこう語っている。
「愛したいし、愛されたい」「認められたい」「自分の居場所を探したい」「諦めない」――ヴォイツェックが抱える感情は、誰の中にもあるもの。僕自身、彼のように“そうありたい”と思う部分に強く共感しています。
この言葉からもわかるように、森田はヴォイツェックという“極限状態の人間”を、単なる役としてではなく、“いまの自分と地続きの存在”として見つめている。
「役として生きる」という覚悟
演出を手がけるのは、小川絵梨子。今回が初タッグとなるが、稽古場では「相手を100%信じる」「自分では何もしない」「委ねること」など、演出家としての哲学が森田に強く響いたという。
彼は会見でこうも語っている。
「とにかく本気でやるだけです。相手を信じ、自分を信じてもらうことで、役として舞台上で生きたい。何が起こるか分からない空間で、全力で走り切りたいと思っています。」
これは、台詞をなぞるのではなく、“生きる”という行為そのものを舞台上で表現しようとする彼の現在の演技スタイルを示している。もはやそれは、「俳優」という肩書きに収まらない。森田剛は、“人間として、その瞬間を生きる”ことに徹しているのだ。
「今の森田剛」だからこそできる芝居がある
森田剛の現在の表現には、若さだけでは出せない“深み”と“余白”がある。キャリアを重ね、グループ活動を終え、自分の選んだ道を歩き出した今だからこそ、その内側にある繊細さや脆さ、強さが滲み出る。
『ヴォイツェック』という作品は、そうした“人間の業”を描く舞台だ。まるで現代社会そのもののように、愛されたいと願う者が孤独に押し潰され、居場所を探しながらも暴力や不条理に飲み込まれていく。
その中で、森田剛という俳優が立つ。そこには、台詞を超えた感情がある。沈黙すらも雄弁に語る彼の芝居は、観る者の心に静かに、そして深く残る。
舞台『ヴォイツェック』上演情報(2025年)
東京公演:9月23日~28日@東京芸術劇場 プレイハウス
地方公演:岡山、広島、福岡、兵庫、愛知などで順次上演
再演東京公演:11月7日~16日@東京芸術劇場 プレイハウス
演出:小川絵梨子
翻訳:髙田曜子
脚本原作:ジャック・ソーン(原作:ゲオルク・ビューヒナー)
出演:森田剛、伊原六花、伊勢佳世、浜田信也、冨家ノリマサ、栗原英雄
演じ続けるということ、そして“人間であること”
今の森田剛を見ていると、“演じる”という行為が、“生きる”ことと限りなく近づいているのを感じる。舞台上で何が起きてもいい。その場で起きたことに、まっすぐ反応する。そういう信頼と覚悟が、彼の演技を支えている。
それは決して派手な話ではない。だが、その静かな熱は、どんな爆発よりも観る者の心を動かす。森田剛は今、“役者”ではなく、“人間”として舞台に立っている。
この「ヴォイツェック」は、そんな彼の“今”を見届ける絶好の機会だ。
観終わったあと、きっとあなたはこう思うだろう。
「彼の芝居を“見た”のではなく、“出会った”のだ」と。
📝 関連リンク(公式・参照)
- PARCO STAGE 公式サイト(https://stage.parco.jp)
- 森田剛 所属会社 MOSS 公式(https://moss.tokyo)
- 朝日新聞デジタル:ヴォイツェック会見記事
- 映画ナタリー 森田剛インタビュー
- クランクイン!インタビュー
森田剛という人間が、今だからこそ演じる“ヴォイツェック”
一人の男が、いま立っている「舞台」の上で 役者・森田剛。かつて国民的グループV6の一員として多くの人々の青春を彩った彼は、グループの解散後、舞台という“生きた空間”を軸に、役者としての人生を深化させている。 2025年秋、彼が主演を務める舞台「ヴォイツェック」が東京で幕を開けた。この作品は、彼の現在地を象徴する一本として、静かに、しかし確実に多くの注目を集めている。 今、なぜ“ヴォイツェック”なのか。 そして、なぜ森田剛なのか。 その答えは、彼自身の「変化」と「選択」にある。 アイドルとしての絶頂から、“
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